相続発生後の確定申告⑧―相続人の確定申告チェックリスト【まとめ】

相続税の申告が終わり、翌年の確定申告の時期を迎えたとき、

「自分は確定申告が必要なのだろうか」と不安を感じた方へ。

このシリーズでは、全7回にわたって、

相続後に相続人として確定申告が必要になるケースを整理してきました。

ここで改めて確認しておきたいことがあります。

このシリーズで扱ってきたのは、「相続税」ではありません。「相続後の所得税」です。

相続税の申告は、相続財産を取得したことに対する税金の話でした。

一方、このシリーズで扱ってきたのは、相続によって財産を引き継いだ後に、その財産から生じる所得や、相続に関連して受け取るお金について、相続人自身の所得税の確定申告が必要になるケースです。

この2つは別の制度であり、別の申告です。

相続税の申告が終わっても、所得税の確定申告が必要になる場合がある——このシリーズは、その判断を支えるためのものです。

最終回となるこの記事では、シリーズ全体を振り返りながら、相続人の確定申告で見落としやすいポイントと、自分で判断するためのチェックリストを見ていきましょう。

目次

このシリーズで扱ったこと

相続税と所得税は別の制度

まず、最も基本的なことを確認しておきます。

  • 相続税:財産を取得したことに対する税金(相続税法)
  • 所得税:所得を得たことに対する税金(所得税法)

相続に関連して受け取ったお金だからといって、すべてが相続税で完結するわけではありません。
相続した財産から生じる所得や、相続に関連して受け取る年金・配当金などは、所得税の対象になることがあります。

このシリーズの対象:相続人の確定申告

このシリーズでは、相続人自身の所得として申告すべきケースを整理してきました。

被相続人の確定申告(準確定申告)については、別シリーズで扱う予定です。

以下は、各回で扱ったテーマの一覧です。

テーマ
第1回判断基準:何税の話か/誰の所得か
第2回生命保険金・死亡退職金
第3回年金(制度別の課税関係)
第4回配当金・分配金
第5回外貨建て資産と為替差損益
第6回譲渡所得(不動産・株式の売却)
第7回不動産所得(賃貸の引継ぎ・青色申告)

「相続税で完結」と「所得税が関係」の見分け方

相続に関連して受け取るお金は、大きく3つのパターンに分かれます。

相続税で完結所得税が関係両方が関係
・預貯金 ・不動産(取得時) ・株式(取得時) ・生命保険金(一時金・相続税型) ・死亡退職金(一時金)・不動産の家賃収入 ・株式の配当金 ・不動産・株式の売却益 ・未支給年金 ・外貨建て資産の為替差益・生命保険金(年金形式) ・死亡退職金(年金形式) ・年金受給権の相続
確定申告:不要確定申告:必要な場合あり確定申告:必要な場合あり

※生命保険金の税目は契約形態(契約者・被保険者・受取人の関係)によって異なります。詳細は第2回参照。

読者がつまずきやすい3つの問い

シリーズを通じて繰り返し確認してきた、3つの判断軸を総復習します。

問い①:そもそも何税の話か

相続に関連して受け取ったお金について、まず確認すべきは「それは相続税で完結するのか、所得税がかかるのか」という点です。

  • 相続税の申告が終わったからといって、所得税の話が終わるわけではない
  • 生命保険金の契約形態によっては、相続税ではなく所得税や贈与税の対象になる
  • 年金受給権の相続では、相続税と所得税の両方が関係することがある

問い②:誰の所得か

所得税の対象であることが分かったら、次に確認すべきは「被相続人の所得(準確定申告)か、相続人の所得(相続人の確定申告)か」という点です。

  • 「いつ入金されたか」ではなく「いつの期間の所得か」で判断する
  • 死亡日という境界線が、帰属を分ける基準になる
  • 死亡後に入金されたお金でも、被相続人の所得になることがある

問い③:何の申告か

  • 準確定申告:被相続人の1月1日〜死亡日までの所得を、相続人が申告する(所得税法第125条)
  • 相続人の確定申告:相続人自身の1月1日〜12月31日の所得を申告する(所得税法第120条)

このシリーズで扱ったのは後者です。

相続税の申告は税理士に依頼しました。確定申告も同じ税理士にお願いすればいいですか?

相続税の申告と、相続人の所得税の確定申告は別の手続きです。
相続税の申告を依頼した税理士に、所得税の確定申告も相談できるか確認してみてください。

相続人の確定申告 判断フローチャート

相続人の確定申告 判断フローチャート

問い①
そのお金は所得税の対象か?
(相続税で完結するものではないか)
いいえ
相続税で完結
確定申告は不要
はい
問い②
誰の所得か?
(いつの期間に帰属する所得か)
死亡日以前
被相続人の所得
準確定申告
(別シリーズ)
死亡日より後
相続人の所得
相続人の確定申告
(このシリーズ)
💡 ポイント:「いつ入金されたか」ではなく「いつの期間の所得か」で判断します。
死亡後に入金されたお金でも、死亡日以前の期間に帰属する所得であれば、被相続人の所得(準確定申告)になります。

自分で確定申告するときに見落としがちなポイント

相続税の申告を税理士に依頼し、その後の確定申告は自分でやろうと考える方もいます。その場合、以下のようなポイントが見落とされやすいことがあります。

見落とし①:年金形式の受取

  • 生命保険金を年金形式で受け取る場合、毎年の確定申告が必要になることがある
  • 学資保険の年金払いも同様
  • 「相続税を払ったから終わり」ではない

(タックスアンサーNo.1620、第2回・第3回参照)

見落とし②:配当金の効力発生日

  • 死亡後に入金された配当でも、効力発生日が死亡日以前なら被相続人の所得
  • 証券会社の年間取引報告書だけでは判断できないことがある
  • 効力発生日の確認が必要

(所得税基本通達36-4、第4回参照)

見落とし③:為替差損益

  • 円換算特約付き外貨建て生命保険でも、為替差損益は発生する
  • 「円で受け取ったから為替リスクはない」は誤解
  • 死亡日評価と実際の受取額の差額を確認する必要がある

(タックスアンサーNo.1480、第5回参照)

見落とし④:取得費加算の特例の期限

  • 相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡する必要がある
  • (相続開始からおおむね3年10か月以内)
  • 期限を過ぎると特例は使えない
  • 売却を検討している場合は期限を意識しておく

(租税特別措置法第39条、タックスアンサーNo.3267、第6回参照)

見落とし⑤:青色申告承認申請の期限

  • 被相続人が青色申告でも、相続人は自動的に青色申告者にならない
  • 提出期限は相続開始時期によって異なる
  • 期限を1日でも過ぎると、その年は白色申告になる

(所得税法第144条、タックスアンサーNo.2070、第7回参照)

見落とし⑥:遺産分割未了でも申告は必要

  • 遺産分割が決まるまで申告を先送りにすることはできない
  • 法定相続分に応じて各相続人が申告する

(最高裁平成17年9月8日判決、タックスアンサーNo.1376、第7回参照)

自分で判断するための最低限チェックリスト

以下のステップで、自分の確定申告が必要かどうかを確認してみてください。

ステップ1:受け取ったお金・発生した所得を洗い出す

以下に該当するものがあるか確認してください。

  • 生命保険金(年金形式で受取中)
  • 死亡退職金(年金形式で受取中)
  • 企業年金・個人年金(年金受給権を相続)
  • 未支給年金(公的年金)
  • 配当金・分配金(死亡後に入金)
  • 外貨建て資産の円転・売却
  • 不動産・株式の売却
  • 賃貸不動産からの家賃収入

ステップ2:各項目について判断基準を確認

該当するものがあれば、対応する記事で判断基準を確認してください。

項目参照根拠条文等
生命保険金・死亡退職金(年金形式)第2回タックスアンサーNo.1620
未支給年金第3回国民年金法第19条、タックスアンサーNo.1605
配当金・分配金第4回所得税基本通達36-4
外貨建て資産第5回タックスアンサーNo.1480
不動産・株式の売却第6回所得税法第60条、租税特別措置法第39条
賃貸不動産の家賃第7回所得税法第144条、タックスアンサーNo.2070

ステップ3:期限を確認

以下の期限に注意してください。

  • 相続人の確定申告:翌年3月15日(所得税法第120条)
  • 青色申告承認申請:相続開始時期による(所得税法第144条、第7回参照)

※期限は相続開始時期によって異なります。早めに税理士または税務署に確認してください。

  • 取得費加算の特例:相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日まで

(相続開始からおおむね3年10か月以内、租税特別措置法第39条、第6回参照)

  • 空き家3,000万円控除:相続開始から3年を経過する年の12月31日まで

(租税特別措置法第35条第3項、第6回参照)

※取得費加算の特例や空き家3,000万円控除は、税制改正の議論に上がりやすい分野です。
制度や期限は改正されることがあるため、売却を検討する際は最新の情報を確認してください。

相続後の確定申告 重要な期限

相続後の確定申告 重要な期限

相続開始
(死亡日)
起算点
相続税
申告期限
10か月後
取得費加算
の期限
約3年10か月後
空き家控除
の期限
3年経過年の12/31
相続人の確定申告
翌年3月15日まで
所得税法第120条
青色申告承認申請
相続開始時期により異なる
※早めに税理士・税務署に確認
所得税法第144条
取得費加算の特例
相続税申告期限の翌日から
3年を経過する日まで
租税特別措置法第39条
空き家3,000万円控除
相続開始から3年を経過する年の
12月31日まで
租税特別措置法第35条第3項
⚠️ 期限を過ぎると特例は使えません。売却を検討している場合は、期限を必ず確認してください。

専門家に相談したほうがいい分岐点

「自分でできそう」と思っても、以下のケースでは専門家への相談を検討してください。

複数の所得が絡み合うケース

  • 年金形式の保険金を受け取りながら、不動産も相続した
  • 外貨建て資産と国内資産の両方を売却した
  • 所得の種類が3つ以上ある

期限が迫っているケース

  • 取得費加算の特例の期限まで半年を切っている
  • 青色申告承認申請の期限が近い
  • 売却を急いで判断する必要がある

金額が大きいケース

  • 譲渡所得が1,000万円を超える見込み
  • 特例の適用で税額が大きく変わる
  • 判断を誤った場合の影響が大きい

判断に迷うケース

  • 効力発生日がいつか分からない
  • 取得費が不明で、概算取得費を使うべきか迷う
  • 被相続人の申告書控えが見つからない

継続的な申告が必要なケース

  • 賃貸不動産を相続し、毎年の確定申告が始まる
  • 年金形式の受取が複数年続く
  • 記帳や帳簿管理の仕組みを整える必要がある

自分で確定申告をしようと思いますが、どこまで自分でできますか?

単発の所得で、判断基準が明確なケースは、申告書への入力自体は自分でできることが多いです。
ただ、他の所得や控除との兼ね合いで有利・不利が変わることもありますよ。

「入力できる」ことと「最適な選択ができている」ことは別問題ですので、迷ったら早めに専門家に相談することをお勧めします。

俯瞰的な視点:相続後の確定申告は「点」ではなく「線」

相続後の確定申告は、一度きりで終わるとは限りません。

  • 年金形式で保険金を受け取る場合 → 毎年の申告
  • 賃貸不動産を相続した場合 → 毎年の申告
  • 売却のタイミングを検討する場合 → 特例の期限管理

相続税の申告は「点」でしたが、相続後の確定申告は「線」として続いていく可能性があります。

このシリーズで整理した判断基準は、今年の確定申告だけでなく、来年以降の判断にも役立つはずです。

制度の意図:判断を支えるために

税制は複雑ですが、取得費加算の特例や空き家3,000万円控除など、
相続人の負担を軽減するために用意されている制度もあります。

相続後の確定申告では、こうした制度が使えるかどうかを、
事実関係に基づいて一つずつ確認していくことになります。

制度の存在を知らないまま期限を過ぎてしまうことがないよう、このシリーズが判断の一助になれば幸いです。

まとめ

このシリーズで整理したこと

  • 相続後に相続人として確定申告が必要になるケースを、7つのテーマで整理
  • 判断の軸は「何税の話か」「誰の所得か」「いつの期間か」
  • 相続税の申告が終わっても、所得税の確定申告が必要になる場合がある

見落としやすいポイント

  • 年金形式の受取、配当の効力発生日、為替差損益
  • 取得費加算・青色申告承認申請の期限
  • 遺産分割未了でも申告は必要

専門家に相談すべき分岐点

  • 複数の所得が絡み合う
  • 期限が迫っている
  • 金額が大きい
  • 継続的な申告が必要

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のご質問には対応しておりません。

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第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。

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