相続発生後の確定申告②―生命保険金・死亡退職金はどう申告する?契約形態で変わる税目

相続税の申告が無事に終わり、生命保険金も受け取った。
相続税の計算では「みなし相続財産」として含めたから、
保険金についての税金の話はこれで終わりだと思っていた。

ところが、翌年の確定申告の時期が近づいてきたとき、ふと不安がよぎる。

保険金を年金形式で受け取っているけれど、確定申告は必要なのだろうか?

あるいは、こんな通知が届いて驚くこともあります。

保険会社から「支払調書」が届いた。相続税はもう払ったのに、なぜ?

生命保険金や死亡退職金は、
相続に関連して受け取るお金の中でも、
「相続税で完結する」と誤解されやすいものの代表例です。

目次

なぜ誤解が生じるのか

生命保険金は、
一般的なケースでは相続税の申告で「みなし相続財産」として扱われます。
そのため、「相続税を払ったから、もう税金はかからない」と考えてしまうのは自然なことです。

しかし実際には、
契約形態によって相続税ではなく所得税や贈与税が課されることがあります。
また、年金形式で受け取る場合には、
契約形態によって、相続税と所得税の両方がかかることがあります。

この記事では、生命保険金と死亡退職金について、
契約形態によって税目がどう変わるのか年金形式で受け取る場合の課税関係を整理します。

前回の記事で示した2つの判断基準
――「そもそも何税の話か」「誰の所得か」――を、具体的な事例で確認していきます。

契約形態によって税目が変わる

生命保険金の課税関係を決める3つの要素

生命保険金にどの税金がかかるかは、次の3つの関係で決まります。

  • 契約者(保険料を負担した人)
  • 被保険者(保険の対象となった人)
  • 受取人(保険金を受け取る人)

この3者の組み合わせによって、相続税・所得税・贈与税のいずれかが適用されます。

なお、税務上は、契約書上の名義だけでなく、
実際に誰が保険料を負担していたかも踏まえて整理されることがあります。
たとえば、契約者名義は子であっても、
実際には親が保険料を支払っていた場合、税務上は親が契約者として扱われます。

契約形態と税目の対応

この税目の違いは、保険料負担者・被保険者・受取人の関係で理解できます。

契約者被保険者受取人税目
相続税
所得税(一時所得)
贈与税

相続税が適用されるのは、保険料負担者と被保険者が同一の場合です。
それ以外の組み合わせでは、所得税や贈与税が課されます。

父が契約者で、受取人が私になっていた保険金は、相続税の申告に含めました。
でも、私が契約者で父が被保険者だった保険もあるのですが……

あなたが実際に保険料を負担していた場合は、
相続税ではなく、あなたの所得税の対象になります。
確定申告が必要になる可能性がありますね。

なぜこのような違いが生じるのか

相続税は「財産を相続したこと」に対する税金です。
保険料負担者=被保険者の場合、
その人が保険料を負担して作った財産が相続されたと考えられるため、相続税の対象になります。

一方、保険料負担者が相続人自身の場合、
保険料を負担したのは相続人ですから、保険金は「自分が積み立てたものが戻ってきた」という性質になります。
この場合、相続ではなく所得税の対象となります。

贈与税が適用されるのは、
保険料負担者でも被保険者でもない第三者が保険金を受け取る場合です。

なお、所得税の対象になる場合でも、受け取った金額のすべてがそのまま課税対象になるわけではありません。どの程度が課税対象になるかは、払込保険料や受取方法などによって変わります。

実務上の注意点

相続税の申告を行う際、税理士は契約形態を確認して「みなし相続財産」に該当するかを判定します。
所得税や贈与税の対象となる保険金については、相続税の申告には含まれません。

相続税の申告が終わったからといって、
すべての保険金について税金の話が完結するわけではない
――この認識を持つことが、第一歩です。

年金形式で受け取る場合の二重課税構造

一時金と年金形式の違い

生命保険金は、一時金で受け取る場合と、年金形式で受け取る場合があります。

一時金で受け取る場合
契約形態に応じて、相続税・所得税・贈与税のいずれかが、受取時に一度だけ課税されます。

年金形式で受け取る場合
受取方法が異なるため、課税関係も変わります。
契約形態が相続税に該当する場合、次の2段階で課税が行われます。

年金形式の課税の仕組み

年金形式で受け取る場合(相続税の対象となる契約形態の場合)、次の2段階で課税が行われます。

第1段階:相続時(受給権への課税)
将来にわたって年金を受け取る権利(年金受給権)が、相続財産として評価されます。
この評価額に対して、相続税が課されます。

第2段階:年金の受取時(雑所得)
実際に受け取った年金額は、相続人の所得税の対象となります。
所得区分は「雑所得」です。

保険金を年金で受け取っていますが、相続税はもう払いました。それなのに、確定申告が必要なのですか?

相続時には「将来もらえる権利」に相続税がかかりました。
実際に受け取るときには、その年の所得として所得税がかかるんです。

なぜ二重に課税されるのか

「相続税を払ったのに、また所得税がかかるのはおかしい」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、相続税と所得税は、課税の対象が異なります。

  • 相続税:「年金を受け取る権利」という財産を取得したことに対する税金
  • 所得税:「実際に受け取った年金」という所得に対する税金

たとえば、相続で賃貸不動産を取得した場合を考えてみます。
不動産を相続したことには相続税がかかりますが、その後に得られる家賃収入には所得税がかかります。
これと同じ構造です。

年金受給権という財産を相続したことと、その財産から生じる所得を得ることは、別の課税事由です。

二重課税の調整措置

ただし、完全に二重に課税されるわけではありません。

毎年受け取る年金額のうち、
相続税の課税対象となった部分(元本相当額)については、所得税の計算上、収入金額から差し引かれます。

実際に所得税が課されるのは、年金額のうち運用益に相当する部分です。

具体的な計算方法は複雑で、国税庁が示す按分計算に基づいて行われます。
保険会社から送られてくる支払調書には課税対象額が記載されていますが、不明な点があれば税理士に確認することをお勧めします。

見落としやすい事例:学資保険の年金払い

特に見落とされやすいのが、学資保険を年金形式で受け取る場合です。

学資保険は、親が契約者・被保険者となり、配偶者や子が受取人となっているケースが多くあります。
保険料負担者=被保険者の場合、相続税の対象となります。

一括で受け取る場合は、受取時に相続税が課されて完結します。
しかし、年金形式で受け取る場合は、毎年の受取額について確定申告が必要になることがあります。

相続税の申告から数年後、学資保険の年金を受け取ると、
雑所得として確定申告が必要になることがあります。

死亡退職金も同じ構造

死亡退職金の課税関係

死亡退職金も、生命保険金と同様に「みなし相続財産」として扱われます。

一時金で受け取る場合は、相続税の申告に含めて完結します。

しかし、年金形式で受け取る場合は、生命保険金と同じ二重課税構造になります。

  • 受給権の評価額に相続税
  • 毎年の受取額に所得税(雑所得)

なお、生命保険金・死亡退職金には、
相続税の計算上「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
この枠内に収まる場合、相続税は課されません。

支給決定が遅れるケース

死亡退職金は、勤務先の退職金規程に基づいて支給が決定されます。

相続税の申告期限(死亡日から10ヶ月)までに支給額が確定していれば、その金額を相続税の申告に含めます。

しかし、支給額の決定が申告期限後になることもあります。
この場合、いったん見込額で申告し、後日「修正申告」または「更正の請求」を行うことになります。

年金形式の場合も、受給権の評価が申告期限後になることがあります。

実務上の注意点

死亡退職金の支給が決まったときに、勤務先から通知が届きます。
年金形式で受け取る場合は、毎年の源泉徴収票や支払調書が届きます。
これを確定申告に含める必要があるかどうかを確認してください。

補足:保険金を受け取っていなくても相続税がかかる場合

ここまで、生命保険金を「受け取ったとき」の課税関係を整理してきました。

ただし、保険金を受け取っていない段階でも、相続税の対象になる場合があります。
それが「生命保険契約に関する権利」です。

たとえば、父が契約者で母が被保険者の保険契約を、父の死亡により相続した場合、
保険金はまだ支払われていませんが、契約者としての地位を引き継いだことに対して、相続税が課税されます。
評価額は、相続開始時点の解約返戻金相当額を基準に計算されます。

相続開始時点で問題になるのは、相続税での評価です。
前回の記事で整理した判断基準に照らせば、この段階では「相続税の話」に該当します。
ただし、その後の状況に応じて、相続税・所得税・贈与税の課税関係が生じる場合があります。

亡くなった方が契約者または保険料負担者となっている保険契約がないか、保険証券や保険会社からの通知を確認しておくといいですね。

誤解されやすいポイントの整理

「相続税で終わった」という思い込み

生命保険金・死亡退職金は、一般的なケースでは相続税の申告で「みなし相続財産」として扱われます。
そのため、相続税の申告が終われば、すべて完結したように感じられます。

しかし実際には:

  • 契約形態によっては、相続税ではなく所得税や贈与税の対象
  • 年金形式で受け取る場合は、確定申告が必要になることがあります
  • 保険金を受け取っていなくても、契約に関する権利が相続税の対象になる場合がある

という構造になっています。

保険会社からの通知を見逃さない

年金形式で受け取る場合、保険会社から毎年「支払調書」が送られてきます。
この通知が届いたら、確定申告が必要かどうかを確認してください。

給与所得がある方でも、年金形式の保険金を受け取っている場合、
年末調整だけでは完結せず、確定申告が必要になることがあります。

税理士への相談タイミング

相続税の申告を税理士に依頼した場合でも、
その後の所得税の確定申告については、別途相談が必要になることがあります。

年金形式で受け取る場合は、毎年の申告をどうするかを、早めに税理士に確認しておくと安心です。

まとめと次回予告

この記事で整理したこと

生命保険金・死亡退職金は、相続に関連して受け取るお金の中でも、
「相続税で完結する」と誤解されやすいものです。

しかし実際には:

  • 契約形態によって税目が変わる
    契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、相続税・所得税・贈与税のいずれかが適用される
  • 年金形式で受け取る場合は、相続税と所得税の両方がかかる
    受給権の評価に相続税、毎年の受取額に所得税(雑所得)
  • 保険金を受け取っていなくても、相続税の対象になる場合がある
    生命保険契約に関する権利は、契約者の地位として評価される

という構造になっています。

相続税の申告が終わっても、確定申告が必要になる場合があります。
保険会社からの通知を確認し、確定申告が必要かどうかを確認してください。

次回予告

次回は、「年金」という名称がつくもの全体を整理します。
公的年金の未支給分、遺族年金、企業年金――。
名称は同じ「年金」でも、制度によって課税関係はまったく異なります。

特に、未支給年金は相続財産ではなく遺族固有の権利という特殊性があります。
「年金」という名称に惑わされないための、制度別の課税関係を整理します。

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相続発生後の確定申告については、以下のシリーズ記事もご参照ください。

これらの記事では、相続人の所得として確定申告が必要になるケースを整理しています。
第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。

相続全体を、税務の観点から整理します

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