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相続発生後の確定申告④―配当金・分配金は誰の所得?効力発生日で見極める

相続税の申告が終わり、株式や投資信託も無事に名義変更を済ませた。
株式を相続人の特定口座へ移管し、源泉徴収ありの設定にしてあるから、 確定申告は不要だと思っていた。
ところが、証券会社から「特定口座年間取引報告書」が届き、配当金が記載されているのを見て、ふと疑問がよぎる。

この配当金は、私の所得として確定申告に含めるべきなのだろうか? それとも、源泉徴収されているから何もしなくていい?
配当金や投資信託の分配金は、 相続に関連して受け取るお金の中でも、
配当の効力発生日が死亡日の前後どちらかによって、誰の所得になるのかが変わる
代表的な例です。
入金された時期だけを見て判断すると、 本来は被相続人の所得(準確定申告)なのに相続人の所得と誤解したり、 あるいはその逆のケースが生じたりします。
この記事では、上場株式・投資信託の配当金・分配金について、 効力発生日という判断軸で整理し、 誰の所得になるのか、相続人の確定申告が関係するのかを明確にします。
配当金・分配金の基本的な考え方
配当金とは
株式会社が株主に対して利益を分配するものが、配当金です。
上場株式の場合、年1回または年2回(中間配当・期末配当)が一般的です。
投資信託の分配金とは
投資信託が保有者に対して収益を分配するものが、分配金です。
毎月分配型、年1回分配型など、ファンドによって異なります。
判断基準1:配当金は所得税の対象
第1回の記事で整理した判断基準を思い出してください。
まず確認すべきは、そのお金が所得税の対象なのか、それとも相続税・贈与税で完結するのか、という点です。
配当金・分配金は、株式や投資信託という財産から生じる所得であり、所得税の対象になります。
判断基準2:誰の所得か
そのお金が所得税の対象であることが分かったら、次に考えるのは「誰の所得として扱うのか」です。
所得税では先に「いつの時点で成立した所得か」を判断し、その時点に存在していた人の所得として扱います。
配当金・分配金の場合、 「いつの期間の所得か」は、配当金交付の効力が生じた日によって判断します。
配当金の収入すべき時期
基準日と効力発生日は別物
配当金について考える際、まず理解すべきなのは、
「基準日」と「効力発生日」は別の概念である
ということです。
基準日: 配当を受け取る権利を持つ株主を確定する日(決算日など)
効力発生日: 配当金交付の効力が生じる日(株主総会の決議日など)
証券会社から送られる配当金の通知書には「基準日」が記載されています。 しかし、所得税法上の判断に必要なのは「効力発生日」です。
時系列の関係:
【よくある例】
基準日 → 株主総会(効力発生日) → 支払日
3/31 6/25 6/30
【死亡日が基準日と効力発生日の間に入るケース】
基準日 → 死亡日 → 株主総会(効力発生日) → 支払日
3/31 4/20 6/25 6/30
↓ ↓
基準日時点では 効力発生日は
株主だった 死亡日より後
↓
相続人の所得
多くの上場会社では、基準日の後に株主総会が開催され、 その決議日(または決議で定めた日)が効力発生日となります。
所得税でいつの所得か
配当金が誰の所得になるかは、 配当金交付の効力が生じた日(効力発生日)によって判断します。
この点は、所得税基本通達36-4で定められており、 配当金交付の効力を生ずる日が定められている場合にはその日、 定めがない場合には、株主総会等の決議があった日が 配当所得の収入すべき時期となります。
判断基準:
- 効力発生日が死亡日以前 → 被相続人の所得(準確定申告)
- 効力発生日が死亡日より後 → 相続人の所得(相続人の確定申告)
効力発生日の確認方法
効力発生日を確認するには:
- 会社の決算短信や株主総会招集通知を確認する
- 証券会社に問い合わせる
- 必要に応じて税理士に相談する
といった方法があります。
効力発生日による判断
パターン1:効力発生日が死亡日以前 → 被相続人の所得(準確定申告)
効力発生日が死亡日以前の場合、 配当金は被相続人の所得として、準確定申告の対象になります。
具体例:
- 配当の基準日:3月31日
- 株主総会(効力発生日):6月25日
- 死亡日:7月20日
- 配当金の支払日:9月10日(死亡後)
→ 効力発生日(6月25日)は死亡日(7月20日)より前
→ この配当金は被相続人の所得
→ 準確定申告で配当所得として申告
パターン2:効力発生日が死亡日より後 → 相続人の所得(相続人の確定申告)
効力発生日が死亡日より後の場合、 この配当金は相続人の所得として扱われます。
具体例:
- 配当の基準日:3月31日
- 死亡日:4月20日
- 株主総会(効力発生日):6月25日
- 配当金の支払日:6月30日
→ 基準日時点では被相続人が株主だった
→ しかし、効力発生日(6月25日)は死亡日(4月20日)より後
→ この配当金は相続人の所得
→ 相続人の確定申告で配当所得として申告
中間配当と期末配当について:
年2回配当がある会社では、中間配当と期末配当で効力発生日が異なります。
死亡日が期中にある場合、中間配当は被相続人の所得、期末配当は相続人の所得、 というように帰属が分かれることがあります。
実務上の重要な注意点
効力発生日と支払日は異なります。
配当金が実際に入金された日(支払日)ではなく、 効力発生日が死亡日より前か後かを確認してください。
配当金の通知書には基準日が記載されていますが、 効力発生日を確認するには、会社の決算短信や株主総会招集通知を見るか、 証券会社に問い合わせる必要があります。



入金のタイミングだけで判断すると、誤った申告につながる可能性がありますので、注意しましょう。
投資信託の分配金も同じ考え方
効力発生日による判断
投資信託の分配金についても、考え方は株式の配当金と同じです。
効力発生日が死亡日より後の分配金は、相続人の所得になります。
未収分配金が発生するケースは稀
ただし、投資信託の場合、株式の配当金とは異なる特徴があります。
株式の配当金は、基準日から支払日まで2〜3ヶ月かかることが一般的です。
一方、投資信託の分配金は、決算日から支払日まで5営業日程度で入金されることが多いため、 その間に相続が発生するケースは稀です。
そのため、投資信託では未収分配金が相続財産となるケースは少なくなります。
普通分配金と元本払戻金の違い
投資信託の分配金には、 「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金)」があります。
普通分配金: 課税対象
元本払戻金: 非課税(元本の一部払戻しのため)
証券会社から送られる年間取引報告書には、 普通分配金と元本払戻金が区分して記載されています。
課税対象となるのは普通分配金のみです。
よくある誤解と実務上の注意点
よくある誤解
誤解1:「死亡後に入金された配当はすべて相続人の所得」
死亡後に入金された配当でも、 効力発生日が死亡日以前であれば、被相続人の所得(相続財産)になります。
入金日ではなく、効力発生日で判断することが重要です。
誤解2:「特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告不要」
特定口座(源泉徴収あり)でも、 配当控除や損益通算を適用することで有利になる場合があります。
「源泉徴収されているから申告しない」と決めつけず、 有利・不利を検討することをお勧めします。
実務上の注意点:証券会社の報告書の見方
証券会社から送られる「特定口座年間取引報告書」には、 その年に受け取った配当金・分配金が記載されています。
ただし、この報告書は暦年(1月1日〜12月31日)で集計されているため、 死亡日前後の配当が混在している場合があります。
相続人の確定申告で申告すべき配当は、 「効力発生日が死亡日より後」のものだけです。
報告書を見る際は、各配当の効力発生日を確認する必要があります。 (通知書には基準日は記載されていますが、効力発生日の確認には会社の決算短信や証券会社への問い合わせが必要な場合があります。)
年間取引報告書に反映されない配当について
名義変更の手続き中(被相続人名義のまま)に支払われた配当は、 相続人自身の「特定口座年間取引報告書」に反映されない場合があります。
その場合、証券会社から郵送される個別の「配当金計算書」を確認し、 効力発生日を確認したうえで、相続人の確定申告に含める必要があります。
報告書だけでなく、個別の通知書も確認することをお勧めします。
実務上の重要な注意点
相続による株式の名義変更には、通常2〜3ヶ月程度かかります。
名義変更が完了する前に効力発生日が到来した配当は、 形式的には被相続人名義のまま支払われることがありますが、 効力発生日が死亡日より後であれば、相続人の所得として扱われます。
証券会社に確認し、効力発生日と名義変更のタイミングを整理しておくことをお勧めします。
遺産分割が未了の場合
相続財産について遺産分割が確定していない場合、その相続財産は各共同相続人の共有に属するものとされ、その相続財産から生ずる所得は、各共同相続人にその相続分に応じて帰属するものとなります。
効力発生日が死亡日より後の配当金は、遺産分割が確定するまでは、 法定相続分に応じて各相続人の所得として申告することになります。
遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではありませんので、分割の確定を理由とする更正の請求または修正申告を行うことはできません。
実務上は、株式を取得する相続人が配当金も受け取る形で遺産分割協議を行うことが一般的です。
まとめと次回予告
この記事で整理したこと
配当金・分配金は、配当の効力発生日が死亡日の前後どちらかによって、誰の所得になるのかが変わります。
効力発生日による判断
- 効力発生日が死亡日以前 → 被相続人の所得、準確定申告の対象(相続財産にも含める)
- 効力発生日が死亡日より後 → 相続人の配当所得
入金日ではなく効力発生日で判断する
- 死亡後に入金された配当でも、効力発生日次第で被相続人の所得になる
- 効力発生日を確認するには、会社の決算短信や株主総会招集通知を見るか、証券会社に問い合わせる
投資信託の分配金
- 効力発生日の考え方は株式と同じ
- 決算日から支払日までの期間が短いため、未収分配金が発生するケースは稀
- 普通分配金と元本払戻金の違いに注意
実務上の注意点
- 特定口座年間取引報告書には、死亡日前後の配当が混在している場合がある
- 効力発生日を確認し、死亡日と照らし合わせて判断する



配当金・分配金の判断は、効力発生日という明確な基準があります。
証券会社からの通知書を確認し、必要に応じて効力発生日を調べることで、落ち着いて整理していけば道筋が見えてきます。
なお、相続人の配当所得として確定申告すべきと判明した後、実際に申告すべきかどうか(税負担と社会保険料への影響)については、「株式の配当・売却益は確定申告すべき?税負担と社会保険料の影響を整理」で詳しく解説しています。
次回予告
次回は、外貨建て資産と為替差損益について取り上げます。
相続財産に外貨建ての生命保険、外貨預金、外国株式などが含まれていた場合、 相続人の確定申告が必要になることがあるのでしょうか?
特に、円換算特約を付けた外貨建て生命保険については、 2025年11月に国税庁の照会事例で取扱いが明確化されました。
「円で受け取ったから為替のことは考えなくていい」と思いがちですが、 実際には、死亡日から保険金支払日までの為替変動により、 相続人の所得として確定申告が必要になる場合があります。
外貨建て資産を相続した場合、 準確定申告と相続人の確定申告、どちらで申告すべきなのか―― 為替差損益という特殊な論点を、第1回で示した判断基準で整理します。
関連記事
相続発生後の確定申告については、以下のシリーズ記事もご参照ください。
- [相続発生後の確定申告①―そのお金、相続税?所得税?最初に確認すべきこと]
- [相続発生後の確定申告②―生命保険金・死亡退職金はどう申告する?]
- [相続発生後の確定申告③―「年金」という名前に惑わされない]
- [相続発生後の確定申告④―配当金・分配金は誰の所得?効力発生日で判断する]
これらの記事では、相続人の所得として確定申告が必要になるケースを整理しています。
第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。
相続全体を、税務の観点から整理します
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