相続発生後の確定申告③―「年金」という名前に惑わされない 制度別の課税関係整理

前回の記事では、生命保険金と死亡退職金について、
契約形態によって税目が変わること、
年金形式で受け取る場合に相続税と所得税の両方がかかる仕組みを整理しました。

「年金」と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは、
国民年金や厚生年金といった公的年金でしょう。

父が受給していた年金が死後に振り込まれた。これは確定申告が必要なのだろうか?

あるいは、

遺族年金の通知が届いた。これも課税されるのだろうか?

しかし実際には、「年金」という名称がつくものは、公的年金だけではありません。
生命保険の年金形式、企業年金、個人年金——。
さらに、死亡後に未払いだった年金(未支給年金)という概念もあります。

名称は同じ「年金」でも、
公的年金か私的年金か、あるいは未支給年金なのかによって、 課税関係はまったく異なります。

この記事では、「年金」という名称がつくもの全体を整理し、
相続人として確定申告が必要になるケースを明確にします。

目次

そもそも課税対象じゃない「年金」

まず確認すべきは、「年金」という名称であっても、そもそも課税対象にならないものがあるということです。

非課税の年金

以下の年金は、所得税も相続税もかかりません。

公的年金:

  • 遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)
  • 寡婦年金
  • 遺族補償年金(労災保険から支給される遺族への年金)

企業年金:

  • 確定給付企業年金法等に基づく一定の遺族年金等

これらは、法律で非課税と定められています。

なぜ非課税なのか

公的年金の遺族年金、寡婦年金、遺族補償年金は、遺族の生活保障を目的とした給付金です。
受取人である遺族の固有の財産として、税負担を求めない制度設計になっています。

企業年金の一定の遺族年金等も、同様に遺族の生活保障という趣旨から、所得税が課税されません。
ただし、こちらは相続税の対象にはなります
(年金受給権に対して相続税が課税されますが、毎年受け取る年金には所得税がかかりません)。

相続に関連して受け取るお金だからといって、すべてが課税対象になるわけではありません。

遺族年金も確定申告が必要ですか?

いいえ、遺族年金は非課税です。税金はかかりません。

遺族年金の通知が届いて不安になる方もいますが、これは課税対象ではありません。 安心して受け取ってください。

相続税の対象になる「年金」

一方、相続税の対象になる「年金」もあります。

私的年金(生命保険、企業年金、個人年金など)を相続した場合、
一時金で受け取るか、年金形式で受け取るかによって、課税関係が変わります。

一時金で受け取る場合は、相続税の申告で完結します。

年金形式で受け取る場合は、
受給権の評価に相続税がかかり、その後に実際に受け取る年金には所得税(雑所得)がかかります。

詳しい仕組みは第2回の記事で解説していますので、
ここでは年金形式で受け取る場合の、相続人の確定申告との関係を確認します。

毎年の年金に所得税がかかるもの

年金受給権を相続した後、毎年受け取る年金は相続人の雑所得になります。
確定申告が必要になる場合があります。

代表的なものとしては:

  • 個人年金保険
  • 学資保険(年金受取)
  • 小規模企業共済(年金受取)
  • 中小企業退職金共済(年金受取)

などがあります。

毎年の年金に所得税がかからないもの

一方、企業年金の中には、
相続税の対象になるものの、毎年受け取る年金に所得税がかからないものがあります。

代表的なものとしては:

  • 確定給付企業年金法の規約に基づく年金

などがあります。

これらは、遺族の生活保障という趣旨から、
公的年金の遺族年金と同様に所得税が課税されません。

ただし、企業年金は制度設計や受取形態によって課税関係が異なる場合があるため、個別の確認が必要です。

これらの制度は「年金」という名称がついていますが、実際には一時金で受け取ることも可能です。
年金形式で受け取る場合のみ、制度によって確定申告が必要になる可能性があります。

相続税の非課税枠について

一時金で受け取る場合、相続税の計算において非課税枠が適用される場合があります。

生命保険契約に基づくもの(個人年金保険、学資保険など)は、生命保険金の非課税枠が適用されます。
企業年金など退職手当金等に該当するもの
(確定給付企業年金、確定拠出年金、小規模企業共済、中小企業退職金共済など)は、
退職手当金等の非課税枠が適用されます。

いずれも、非課税枠は500万円×法定相続人の数です。

ただし、年金形式で受け取る場合は、年金受給権の評価額に対して相続税が課されますが、
この評価額に非課税枠を適用できるかどうかは、制度によって異なります。

詳細については、第2回の記事または税理士にご確認ください。

「年金」と聞くと、つい同じように扱ってしまいがちですが、制度によって扱いが全く違うんですね。

そうなんです。名称だけで判断せず、制度を確認する必要がありますね。

企業年金の年金受給権を相続しましたが、相続税の申告には含めました。これで終わりですか?

相続税は完了していますが、制度によっては毎年受け取る年金に所得税がかかる場合があります。確定申告が必要になる可能性がありますよ。

前回の記事で詳しく説明した相続税と所得税の両方がかかる仕組みと同じ考え方です。

相続税の申告が終わったからといって、確定申告の話が終わるわけではありません。
年金を受け取り始めたら、
制度によって毎年の確定申告が必要になる場合があることを認識しておく必要があります。

未支給年金の特殊性

ここからは、未支給年金について詳しく整理します。

未支給年金は、一時的な未払い分であり、
将来にわたって受け取る年金受給権とは性質が異なります。
まず、公的年金の未支給年金を中心に説明し、その後、企業年金の未支給給付についても触れます。

未支給年金とは

公的年金(国民年金、厚生年金など)は、偶数月の15日に前月・前々月分が後払いで振り込まれます。

そのため、年金受給者が亡くなった時点で、必ず未支給分が発生します。

例: 7月20日に亡くなった場合

  • 6月15日に振り込まれたのは、4月分・5月分
  • 6月分・7月分は未支給

年金は死亡月分まで支給されるため、この例では6月分と7月分が未支給年金になります。

未支給年金の法的性質

未支給年金は、相続財産ではありません。

最高裁判所の判決(平成7年11月7日)において、未支給年金請求権の相続性は否定されています。

国民年金法第19条は、未支給年金の支給を請求できる者の範囲と順位を定めていますが、
この順位は民法の相続順位とは異なります。

これは、民法の相続とは別の立場から、
被保険者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的として、 一定の遺族に対して未支給年金の支給を認めたものです。

つまり、未支給年金は、遺族が自己の固有の権利として請求するものであり、 相続人として相続するものではありません。

課税関係

未支給年金の課税関係は、次のとおりです。

相続税: 相続財産ではないため、相続税の対象外です。

父が亡くなった後に振り込まれた年金は、相続税の申告に含めなくてよかったのですか?

未支給年金は相続財産ではなく、受け取った方の固有の権利です。相続税はかかりませんが、受け取った方の一時所得になります。

所得税: 未支給年金を受け取った遺族の一時所得として、所得税の対象になります。

一時所得の計算式: 一時所得の金額 = 総収入 – 経費 – 特別控除額(50万円)

未支給年金は、遺族が自己の固有の権利として請求し受け取るものであり、
遺族自身がその収入を得るために支出した金額は通常ありません。
そのため、一時所得の計算上、収入を得るために支出した金額は考慮せず、総収入から特別控除額50万円を差し引いて計算します。

未支給年金は一時所得となり、特別控除50万円を差し引いた後の金額の2分の1が、課税対象となります。

この金額を他の所得と合算して、最終的な確定申告の要否を判定します。
そのため、未支給年金が50万円を超えていても、他の所得の状況や基礎控除等によっては確定申告が不要となる場合があります。

実務上、未支給年金は2〜3ヶ月分であることが多く、50万円以下のケースがほとんどです。
この場合、他に一時所得(生命保険の満期金など)がなければ、
課税対象となる所得はゼロになり、確定申告は不要です。
(参考:国税庁タックスアンサー No.1605 遺族の方が受ける公的年金等、No.4123 相続税が課税されない財産)

請求権者の範囲と順位

未支給年金を請求できるのは、死亡した受給権者と生計を同じくしていた以下の親族です。

請求できる順位(国民年金法第19条):

  1. 配偶者(内縁の配偶者を含む)
  2. 父母
  3. 祖父母
  4. 兄弟姉妹
  5. 上記以外の三親等内の親族

重要なポイント:

  • 「自己の名で」請求する 死亡した受給権者の代理ではなく、自己の固有の権利として請求します。
  • 民法の相続順位とは異なる この順位は、国民年金法で独自に定められたものです。
  • 死亡時に生計を同じくしていたこと これが請求の要件です。 生計同一とは、同居していた場合だけでなく、別居でも仕送りなど生活費の援助があった場合を含みます。
  • 相続放棄しても請求できる 未支給年金は相続財産ではないため、相続放棄をしていても請求することができます。

私は相続放棄をしましたが、未支給年金は受け取れますか?

はい、未支給年金は相続財産ではないので、相続放棄していても受け取ることができます。

未支給年金は相続財産ではない

未支給年金について、よくある誤解があります。

亡くなった父が受け取るはずだった年金だから、相続財産として相続税の申告に含めるべきでは?

しかし、未支給年金は相続財産ではありません。

未支給年金:

  • 相続財産ではない
  • 受け取った遺族の固有の権利
  • 相続税の対象外
  • 受け取った遺族の一時所得

参考:遺族年金

  • 遺族の生活保障として支給される年金
  • 非課税
  • 確定申告は不要

未支給年金は、相続税の申告には含めませんが、
受け取った遺族の確定申告で一時所得として申告する可能性があります
(ただし、実務上は50万円以下で申告不要となるケースが多い)。

この2つを区別して理解することが重要です。

請求手続きと時効

未支給年金を受け取るには、以下の手続きが必要です。

実務上の手続き:

通常、「年金受給権者死亡届」と「未支給年金の請求」は、一体型の書式で同時に手続きします。

請求先: 年金事務所または年金相談センター

提出書類:

  • 年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書
  • 死亡を証明する書類(死亡診断書のコピーなど)
  • 請求者と死亡した受給権者の関係を証明する書類(戸籍謄本など)
  • 生計同一関係を証明する書類(住民票など)
  • 亡くなった方の年金証書

年金受給権者死亡届の提出期限:

年金を受給していた方が亡くなった場合、「年金受給権者死亡届」を提出する必要があります。

  • 国民年金:死亡日から14日以内
  • 厚生年金:死亡日から10日以内

ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として死亡届の提出が不要です。
マイナンバーが未登録の場合や、一部の共済組合の年金などは、上記の期限内に提出が必要になります。

死亡届の提出が遅れた場合の注意点:

年金は偶数月の15日に前月・前々月分が後払いで振り込まれます。 死亡届の提出が遅れると、死亡後の期間に対応する年金が振り込まれ続けることがあります。

例:

  • 7月20日に死亡
  • 8月15日:6月分・7月分が振り込まれる(未支給年金)
  • 死亡届の提出が遅れた
  • 10月15日:8月分・9月分が振り込まれる(過払い)

死亡後の期間に対応する年金(上記の例では8月分・9月分)は、受給権がないため、返還が必要になります。

葬儀や相続手続きで慌ただしい中でも、なるべく早く手続きを行ってくださいね。

未支給年金の請求期限:

死亡届と同時に手続きすることが一般的ですが、未支給年金の請求自体には、死亡日からの日数制限はありません。 ただし、時効があります。

時効: 未支給年金を受ける権利は、年金の支払日の翌月の初日から5年を経過したときは時効によって消滅します。

受取時期: 請求から3〜4ヶ月程度で決定通知書が送付され、その後おおむね2ヶ月程度で振り込まれます。

企業年金の未支給給付

企業年金にも、未支給給付の制度があります。

企業年金の受給者が亡くなった場合、死亡月までの年金で受給者に支払われていない部分は、 制度によって扱いが異なる場合がありますが、公的年金の未支給年金と同様に扱われることが多く、 その場合は遺族の一時所得として所得税の対象になります。

一方、死亡の翌月以降を対象にした年金(遺族給付金)は、 遺族が定期金に関する権利を相続したとして、相続税の対象になります。

この区別が重要です。

具体的な取扱いは、加入している企業年金の制度設計や規約によって異なるため、個別の確認が必要です。

企業年金の未支給給付

企業年金にも、未支給給付の制度があります。

企業年金の受給者が亡くなった場合、死亡月までの年金で受給者に支払われていない部分は、
制度によって扱いが異なる場合がありますが、
公的年金の未支給年金と同様に扱われることが多く、 その場合は遺族の一時所得として所得税の対象になります。

一方、死亡の翌月以降を対象にした年金(遺族給付金)は、
遺族が定期金に関する権利を相続したとして、相続税の対象になります。

この区別が重要です。

具体的な取扱いは、加入している企業年金の制度設計や規約によって異なるため、個別の確認が必要です。

相続人の確定申告が必要になる「年金」

ここまでの整理を踏まえて、相続人の確定申告が必要になる「年金」を確認します。

年金受給権を相続した後の年金受取

年金受給権を年金形式で受け取る場合、制度によって毎年受け取る年金の扱いが異なります。

毎年の年金が雑所得になるもの(確定申告が必要になる場合がある):

  • 生命保険金(年金形式で受け取る場合)
  • 個人年金保険(年金形式で受け取る場合)
  • 学資保険(年金形式で受け取る場合)
  • 小規模企業共済(年金形式で受け取る場合)
  • 中小企業退職金共済(年金形式で受け取る場合)

毎年の年金に所得税がかからないもの(確定申告不要):

  • 確定給付企業年金法の規約に基づく一定の年金

これらは、相続税の対象にはなりますが、毎年受け取る年金には所得税が課税されません。

ただし、企業年金は制度設計や受取形態によって課税関係が異なるため、個別の確認が必要です。

一時金で受け取る場合は、相続税の申告で完結します。
年金形式で受け取る場合のみ、上記のように制度によって確定申告の要否が変わります。

詳細な課税の仕組みは、第2回の記事で解説しています。

参考:国税庁タックスアンサー
No.1605 遺族の方が受ける公的年金等、
No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係

未支給年金 → 遺族の一時所得

公的年金や企業年金の未支給分を受け取った場合、受け取った遺族の一時所得になります。

一時所得の特別控除50万円があり、
課税対象となるのは「(収入−特別控除50万円)×1/2」の部分です。
この金額を他の所得と合算して、最終的な確定申告の要否を判定します。

非課税の年金(確定申告不要)

以下の年金は非課税のため、確定申告は不要です。

  • 遺族年金
  • 障害年金
  • 労災年金

判断の流れ

受け取った「年金」をどう判断すればよいか、流れを整理します。

ステップ1:それは何という制度の年金か?

遺族年金・障害年金・労災年金 → 非課税(確定申告不要)で終了

公的年金の未支給分 → ステップ2へ

生命保険・企業年金・個人年金など → ステップ3へ

ステップ2:未支給年金(公的年金)の場合

  • 相続税の対象外
  • 受け取った遺族の一時所得
  • 他の所得と合算して確定申告の要否を判定

ステップ3:年金受給権を相続した場合

  • 受給権の評価 → 相続税の対象(第2回参照)
  • 毎年受け取る年金 → 制度により異なる
    • 雑所得になるもの(確定申告が必要になる場合あり)
    • 所得税が課税されないもの(確定申告不要)

(参考:国税庁タックスアンサー No.1605、No.1620)

制度別分類の一覧表

制度相続税所得税確定申告
遺族年金(公的)なしなし不要
未支給年金(公的)なしあり(一時所得)50万円以下は通常不要
障害年金なしなし不要
労災年金なしなし不要
企業年金の一定の遺族年金等ありなし不要
生命保険(年金形式)受給権に課税雑所得必要な場合あり
個人年金保険受給権に課税雑所得必要な場合あり

まとめと次回予告

この記事で整理したこと

「年金」という名称だけでは課税関係は判断できません。 制度によって、相続税・所得税・非課税に分かれます。

非課税の年金

  • 遺族年金、障害年金、労災年金
  • 確定申告は不要

相続税の対象になる年金

  • 生命保険、企業年金、個人年金などの年金受給権
  • 受給権の評価に相続税、毎年の受取額に所得税
  • 詳細は第2回の記事を参照

未支給年金(公的年金)の特殊性

  • 相続財産ではなく、遺族固有の権利
  • 相続税の対象外、受け取った遺族の一時所得
  • 請求権者の順位(国民年金法第19条)と生計同一要件
  • 死亡時に生計を同じくしていた親族が、順位に従って請求
  • 遺族年金とは別物
  • 相続放棄しても請求できる

相続人の確定申告が必要になる場合

  • 年金受給権を相続した後の年金受取(制度により雑所得となる場合)
  • 未支給年金を受け取った場合(一時所得、他の所得と合算して判定)

制度を正確に把握することで、申告漏れを防ぐことができます。
「年金」という名称に惑わされず、何という制度のお金なのかを確認しましょう。

(参考:国税庁タックスアンサー No.1605、No.1620、No.4123)

次回予告

次回は、配当金・分配金について取り上げます。

死亡後に入金された配当金は、相続人の所得になるのか、それとも相続財産なのか―― 基準日という判断軸で整理します。

上場株式や投資信託を相続した方、特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告が必要になる場合があります。

関連記事

相続発生後の確定申告については、以下のシリーズ記事もご参照ください。

これらの記事では、相続人の所得として確定申告が必要になるケースを整理しています。
第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。

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