相続発生後の確定申告①―そのお金、相続税?所得税?最初に確認すべきこと

親が亡くなり、葬儀を終え、遺産分割協議を整え、相続税の申告も無事に完了した。
ようやく一息つけると思った矢先、翌年の確定申告の時期が近づいてきて、ふと不安がよぎることがあります。

相続後に入ってきたお金、自分の確定申告で何か申告すべきなのだろうか

相続税の申告が不要だった方も、すでに完了した方も、この疑問は共通しています。
なぜなら、相続税と所得税は別の制度であり、相続税の申告が終わったからといって、所得税の申告義務がなくなるわけではないからです。

実際、相続発生後には様々なお金が動きます。
亡くなった後に振り込まれた家賃、配当金の通知、生命保険金の受取、未支給の年金——。
これらのお金は「誰の所得として、どの確定申告で申告すればよいのか」という問いに、多くの相続人が戸惑います。

確定申告すべきものがあるのかを判断するには、まずそのお金が何税の対象なのかを確認する必要があります。この記事では、その判断のための2つの基準を整理します。

  • 第一の基準で、「相続税」と「所得税」の境界線を見極める
  • 第二の基準で、「被相続人の準確定申告」と「相続人の確定申告」の境界線を見極める

この2つの軸で考えることができれば、相続後に受け取ったお金をどう扱うべきか、道筋が見えてきます。

目次

判断基準1:そもそも所得税の話か

確定申告が必要かを判断するには、まずそのお金が所得税の対象なのかを確認する必要があります。

資産に対する税金と、所得に対する税金

税金には、大きく分けて2つの考え方があります。

資産(ストック)に対する税金——相続税・贈与税
財産を「持っていること」「もらったこと」に着目して課税します。相続によって財産を取得したという事実そのものが、課税の対象になります。

所得(フロー)に対する税金——所得税
一定期間に得られた所得に着目して課税します。給与、事業利益、家賃収入、配当金など、様々な形で得られるものが課税の対象になります。

相続で財産を取得することと、所得を得ることは、根本的に異なります。この違いを理解することが、判断の出発点になります。

3つのパターン

相続に関連して受け取るお金は、次の3つのパターンに分かれます。

相続税で完結するもの

相続によって取得した財産そのものは、相続税の対象です。所得税はかかりません。

たとえば、預貯金、不動産、株式などを相続した場合、
これらは相続税の計算に含まれますが、取得したこと自体に所得税は生じません。
財産を「もらった」という事実に対しては、相続税で課税関係が完結します。

所得税がかかるもの

一方、所得税の対象となるものもあります。

ただし、死亡後に相続人が受け取ったお金が、すべて相続人の所得になるわけではありません。
被相続人の所得として準確定申告すべきものと、相続人の所得として確定申告すべきものがあります。
この判断については、次の判断基準2で詳しく扱います。

また、相続によって承継した財産から生じる所得
——たとえば、相続した不動産から得られる家賃収入、相続した株式から得られる配当金——
これらは、財産を取得したこと(資産の移転)ではなく、その財産から生じる所得ですから、所得税の対象になります。

相続税と所得税が別々に関係するもの

ここが最も混乱しやすい部分です。

生命保険金や死亡退職金のように、相続税の計算に含まれるものの中には、所得税とも関係するものがあります。ただし、この両者は「二重課税」ではなく、それぞれ別の視点で課税されています。

生命保険金は相続税を払ったのに、また所得税がかかるのですか?

課税される税金の種類は、保険の契約形態によって変わります。

生命保険金については、契約者・被保険者・受取人の関係によって、相続税、所得税、贈与税のいずれかが適用されます。相続税の申告が終わったからといって、所得税の話が終わるわけではありません。

なぜこの視点が最初に必要なのか

相続税と所得税を混同すると、「もう申告は終わった」と思い込んでしまうことがあります。
しかし、これらは別の制度であり、別のタイミングで申告が必要になる場合があります。

そのお金が「そもそも所得税の話なのか」を確認することは、確定申告すべきものを見落とさないための最初の一歩です。
相続に関連して受け取ったお金だからといって、すべてが相続税だけで完結するわけではない
——この認識を持つことが、第一の判断基準です。


判断基準2:誰の所得か

所得税の対象であることが確認できたら、次に考えるべきは、そのお金が誰の所得なのかという点です。

ただし、この問いに答えるためには、必ず「いつの期間に発生した所得か」を確認する必要があります。
相続の場面では、期間の確認によって、被相続人の所得か相続人の所得かが決まるからです。

所得税の基本的な考え方

所得税は、「誰が」「いつ」稼いだかを基準に課税される仕組みです。通常は、1月1日から12月31日までの暦年で区切って計算します。

しかし相続が発生すると、被相続人については「死亡日まで」という特別な区切りが生じます。
この区切りが、準確定申告と相続人の確定申告を分ける基準線になります。

死亡日という境界線

被相続人が亡くなった場合、その年の1月1日から死亡日までの所得については、相続人が「準確定申告」を行います。死亡日を含むこの期間に発生した所得は、被相続人の所得として申告する対象になります。

一方、死亡日の翌日以後に発生した所得については、原則として相続人の所得として扱われます。

ここで重要なのは「いつ入金されたか」ではなく、「いつの期間の所得か」です。

父が亡くなった後に振り込まれた家賃は、私の所得になりますか?

いつの期間の家賃なのかによって、答えが変わります。

入金日と所得の発生期間は別物

死亡後に入金されたからといって、すべてが相続人の所得になるわけではありません。

たとえば、9月に亡くなった方の場合:

  • 9月分の家賃が10月に入金された → 9月分=死亡日を含む期間の所得 → 被相続人の所得(準確定申告)
  • 10月分の家賃が11月に入金された → 10月分=死亡日の翌日以後の所得 → 相続人の所得

配当金や利息についても同様です。
配当の基準日がいつだったのか、利息の計算期間がいつからいつまでだったのか——これらを確認することで、どちらの申告に含めるべきかが見えてきます。

父が亡くなった翌月に振り込まれた配当金は、私の所得ですか?

その配当金の基準日が、お父様の死亡日より前か後かを確認しましょう。

誰の所得かは、期間によって決まる

相続の場面では、「誰の所得か」という問いは、「いつの期間の所得か」によって答えが決まります。

被相続人が生前に得る権利を持っていた所得、
つまり死亡日までの期間に発生した所得は、原則として被相続人の所得として扱われます。
相続人が相続によって財産を承継した後に、
その財産から新たに生じた所得は、相続人の所得として扱われます。

不動産を例にとれば、死亡日の翌日以後の期間に対応する家賃収入は、相続人の所得です。
しかし、死亡日までの期間に対応する家賃は、被相続人の所得として準確定申告の対象になります。
(ただし、詳細な判断には契約内容の確認が必要です。)

期間の確認が鍵になる

相続の場面では、期間の確認が特に重要になります。

「その所得は誰のものか」を判断するために、
「いつの期間に帰属するのか」を丁寧に確認することが、正確な申告につながります。


よくある具体例と、混乱しやすいポイント

ここでは、実際の相続手続きで遭遇しやすい事例を紹介します。
ただし、これらの事例について、最終的な結論や詳しい処理方法はここでは示しません。
「どう判断すべきか迷いやすい」という問題提起にとどめ、後続の記事で詳しく解説していきます。

死亡後に入金された家賃

賃貸不動産を所有していた方が亡くなり、翌月に家賃が振り込まれた場合、
この家賃は誰の所得として申告すべきでしょうか。

一見すると、亡くなった後に入金されたのだから相続人の所得のようにも思えます。しかし、その家賃が「いつの期間」に対応するものかによって、答えは変わります。

死亡日を含む月の家賃なのか、死亡日の翌月分の家賃なのか
——期間の対応関係を確認する必要があります。

入金のタイミングだけで判断すると、誤った申告につながる可能性があります。

死亡後に支払われた未収配当・利息

株式の配当金や預金利息が、死亡後に支払われるケースも多くあります。
これらは、配当の基準日や利息の計算期間がいつだったかによって、帰属先が変わります。

配当金の通知書には、基準日が記載されています。
その基準日が死亡日より前であれば、被相続人の所得として扱われます。
しかし、実際に支払われるのは死亡後であるため、
「入金されたから相続人の所得」と誤解されやすい部分です。

生命保険金・死亡退職金

生命保険金や死亡退職金は、相続に関連して受け取るお金の中でも、特に混乱しやすいものです。

相続税の申告で「みなし相続財産」として扱われるのは、特定の契約形態の場合に限られます。
契約者・被保険者・受取人の関係によって、相続税、所得税、贈与税のいずれか、または複数が関係します。

「相続税を払ったから、もう税金はかからない」と思い込むと、
後で所得税の申告が必要だと気づき、慌てることになります。

年金の未支給分

公的年金や企業年金の未支給分も、相続後に受け取ることがあります。
これらは制度によって、相続税の対象になる場合と所得税の対象になる場合があり、判断が特に難しい分野です。

株式の売却益

株式を保有していた方が亡くなり、その後に相続人が株式を売却した場合、売却益は相続人の所得になります。
ただし、取得費の計算では被相続人の取得価額を引き継ぎ、
また相続税を支払っている場合は特例により、相続税の一部を取得費に加算できることがあります。
所得税の計算に相続税額が関係するケースです。


なぜ、こんなに複雑なのか

ここまで読んで、「なぜこんなに複雑なのだろう」と感じた方もいるかもしれません。

相続発生後の確定申告が複雑に感じられるのは、2つの異なる境界線を確認する必要があるからです。

1つ目の境界線は、相続税と所得税です。
資産の移転に対する税金と、得られた所得に対する税金
——この2つは、そもそも課税の根拠が異なります。
相続に関連して受け取ったお金だからといって、すべてが相続税で完結するわけではありません。

2つ目の境界線は、被相続人と相続人です。
所得税の対象であることが確認できたら、次に、その所得が誰に帰属するのかを判断します。
死亡日という時点を境に、同じ財産から生じる所得でも、帰属先が変わります。

この2つの境界線を、順を追って確認していくことが求められます。
しかし、現実の生活は、綺麗に整理できるものばかりではありません。

家賃、配当金、生命保険金といったお金は、
個々の財産や権利の内容によって性質が異なるため、
使用期間、基準日、契約関係といった判断基準をひとつずつ確認する必要があります。

相続後に迷いやすいのは、
税目の判定と、準確定申告か相続人の確定申告かという判断を、
財産ごとに行わなければならない点にあります。


まとめと次回予告

この記事では、相続発生後の確定申告について、2つの判断基準を整理しました。

  1. そもそも所得税の話か——相続税で完結するのか、所得税がかかるのか
  2. 誰の所得か——被相続人と相続人の境界線を、時間の流れから見極める

この2つの軸で考えることで、自分の確定申告で何を申告すべきか、道筋が見えてきます。

まず税目を切り分け、所得税の対象であることが確認できたら、次に「誰の所得か」を判断する
——被相続人の所得であれば準確定申告を行い、相続人の所得であれば相続人自身の確定申告を行います。

この順序で考えることが、実務的な判断プロセスに沿っています。
そして、「誰の所得か」を判断するためには、必ず「いつの期間の所得か」を確認する必要があります。
相続の場面では、この2つは切り離せません。

複雑に見えますが、2つの判断基準を押さえれば大丈夫。一つずつ確認していけば、必ず道筋が見えてきますよ

この記事では、判断の考え方を整理するところまでを扱いました。
具体的な事例については、次回以降、順に取り上げていく予定です。

次回は、生命保険金と死亡退職金を取り上げます。
契約形態によって相続税・所得税・贈与税のどれが課されるのかを整理したうえで、
年金形式で受け取る場合に相続税と所得税の両方がかかるケースについて解説します。
学資保険の年金払いなど、見落としやすい事例にも触れます。

関連記事

相続発生後の確定申告については、以下のシリーズ記事もご参照ください。

これらの記事では、相続人の所得として確定申告が必要になるケースを整理しています。
第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。

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