相続発生後の確定申告⑤―外貨建て資産と為替差損益 準確定申告?相続人の確定申告?

本記事は、所得税法・所得税法施行規則(2025年4月1日改正)および国税庁タックスアンサー(2025年4月時点)に基づいて解説しています。

父が外貨建ての生命保険に加入していた。

相続税の申告では、死亡日の為替レートで円換算して申告した。

保険金は円で受け取る契約だったから、為替の心配はないと思っていた。

ところが、翌年の確定申告の時期が近づいてきたとき、ふと疑問がよぎる。

死亡日から保険金を受け取るまでの間に、為替レートが変動している。

この差額は、確定申告が必要なの?

外貨建て資産を相続した場合、

相続税の申告だけでなく、所得税の確定申告が必要になることがあります。

しかも、死亡日という時点を境に、

準確定申告で扱うべきものと、相続人の確定申告で扱うべきものが分かれます。

この記事では、外貨建て資産について、
死亡日という境界線でどう判断するのか、
特に見落とされやすい円換算特約付き外貨建て生命保険の取扱いを中心に整理します。

あなたのケースはどこに当てはまる?

この記事を読む前に、まずご自身の状況を確認してみてください。

□ 外貨預金を相続し、円で受け取った(または円に換えた、換える予定)
□ 外貨建てMMFや外国株式を相続し、円で受け取った(または売却した)
□ 外貨建ての生命保険金を受け取った(円で受取る契約)
□ 外貨建ての生命保険金を外貨で受け取り、その後円に換えた
□ 相続税の申告は終わったが、為替差損益について確定申告が必要か分からない

→ 1つでも当てはまる方は、この記事が参考になります。

目次

判断の基準:死亡日という境界線

第1回の記事で整理した判断基準を、ここで再確認します。

相続に関連して受け取ったお金について、確定申告が必要かどうかを判断するには、

第一の基準:税目の判定(相続税 / 所得税)
第二の基準:誰の所得か(被相続人 / 相続人)

この2つの軸で考える必要がありました。

そして、「誰の所得か」を判断するためには、

「いつの期間の所得か」を確認する

ことが不可欠でした。

外貨建て資産の為替差損益も同じ考え方

外貨建て資産を相続した場合も、この考え方は変わりません。

ただし、外貨建て資産には重要な原則があります。

外貨建て資産は、決済(円転・売却)しない限り、為替差損益は実現しない

外貨のまま保有している段階では、為替差損益は未実現(実際には損益が確定していない状態)であり、実際に円に換えた時点、または売却した時点で、為替差損益が確定します。

この原則を踏まえると、外貨建て資産の為替差損益は、

「いつ決済(円転・売却)が完了したか」

によって、誰の所得になるかが決まります。

死亡日前に円転・売却が完了している → 被相続人の所得(準確定申告の対象になり得る)
死亡日後に円転・売却が完了した → 相続人の所得(相続人の確定申告の対象になり得る)

外貨建て資産の為替差損益 判断フローチャート

外貨建て資産を相続した
いつ決済した?
(円転・売却・外貨での資産購入)
死亡日より前
被相続人の所得

準確定申告
まだ決済していない
(外貨のまま保有)
為替差損益は未実現

申告不要
(決済時に判定)
死亡日より後
相続人の所得

相続人の確定申告

※決済=円転・売却だけでなく、外貨で別の資産を購入した場合も含む

相続税評価と為替レート

外貨建て資産の相続税評価は、死亡日のTTB(対顧客直物電信買相場)で円換算します。

TTBとは、金融機関が顧客から外貨を買い取る際のレートです。
顧客の立場からすれば、外貨を売って円に換えるときのレートということになります。

相続税評価額 = 外貨建て資産の額 × 死亡日のTTB

この評価額が、相続財産として申告されます。

たとえば、10,000米ドルの外貨預金を相続した場合:

  • 死亡日のTTB:1ドル=150円
  • 相続税評価額:10,000ドル × 150円 = 150万円

ただし、この相続税評価はあくまで相続税法上の評価ルールであり、所得税の課税関係とは切り離して考える必要があります。

外貨預金を相続した場合

相続税の評価と被相続人の準確定申告

外貨預金を相続した場合、相続税の申告では、死亡日のTTBで円換算した金額を相続財産として申告します。

具体例:

  • 死亡日:2025年7月20日
  • 外貨預金:10,000米ドル
  • 死亡日のTTB:1ドル=150円
  • 相続税評価額:10,000ドル × 150円 = 150万円

ただし、外貨預金を保有したまま亡くなった場合、その時点では円に換えていないため、為替差損益は発生していません。

そのため、被相続人の準確定申告で為替差損益を申告することは原則ありません。

相続後に円転した場合

為替差損益が問題になるのは、相続人が相続後に外貨預金を円に換えた時点です。

この場合、死亡日の評価額(相続税評価額)と円転時の受取額の差額が、相続人の雑所得として認識されます。

具体例の続き:

2025年10月に円転

  • 円転時のTTB:1ドル=155円
  • 受取額:10,000ドル × 155円 = 155万円

死亡日からの為替差益:

  • 為替差益:155万円 – 150万円 = 5万円

この5万円は、相続人の雑所得として、相続人の確定申告で申告します。

外貨預金の為替差損益 計算イメージ

(過去)
被相続人が取得
10,000ドル
2025年7月20日
死亡日
TTB: 1ドル=150円
評価額: 150万円
2025年10月
相続人が円転
TTB: 1ドル=155円
受取額: 155万円
155万円 − 150万円 = 5万円
→ 相続人の雑所得として確定申告

※外貨預金は、被相続人の取得価額ではなく死亡日の評価額を基準に計算します

父が保有していた外貨預金を相続しました。
円に換えた時点で為替差益が出たのですが、確定申告が必要ですか?

死亡日の評価額と円転時の受取額の差額は、あなたの雑所得になります。確定申告が必要になる可能性がありますよ。

外貨のまま保有し続ける場合

外貨のまま保有し続ける場合は、為替差損益は未実現のため、確定申告は不要です。

ただし、為替差損益が実現するのは、円に換えた時だけではありません。

その外貨で別の資産(他の通貨や物品)を購入した時も、その時点で為替差損益が実現したとみなされます。

たとえば、相続した米ドルでそのまま米国株を購入した場合、購入時点で一度円転したとみなして、為替差損益を計算する必要があります。

実際に円に換えた場合も、外貨で別の資産を購入した場合も、いずれも為替差損益が確定し、所得税の対象になります。

実務上の注意点:取得費の考え方

外貨預金を円転した場合の為替差損益の計算において、相続人が「取得費」として用いるのは、死亡日の評価額(相続税評価額)です。

これは、外貨預金が金銭債権であり、株式や不動産のように「被相続人の取得価額を引き継ぐ」という規定の対象外であるためです。

相続人にとっては、死亡日のレートで評価された金額が、外貨預金を「取得した」時点の円換算額として扱われます。

外貨建てMMF・外国株式を相続した場合

相続税の評価

死亡日のTTBで円換算した金額を、相続財産として申告します。

  • 外貨建てMMF:死亡日の解約価額(外貨)× 死亡日のTTB
  • 外国株式:死亡日の終値(外貨)× 死亡日のTTB

相続後に売却した場合

相続後に売却した場合、為替差益も含めてすべて譲渡所得として計算されます。

外貨預金とは異なり、為替差益を雑所得として別途計上する必要はありません。

取得費の計算:

取得費は、被相続人の取得価額を引き継ぎます。

  • 被相続人の取得時の外貨建て価格
  • 取得時の為替レート
  • 取得時の円換算額

これらの情報が必要になります。

相続税を支払っている場合、取得費加算の特例により、相続税額の一部を取得費に加算できる可能性があります。

この特例については、次回(第6回)の記事で詳しく解説します。

譲渡所得の計算:

売却価額(円換算)− 取得費(被相続人の取得価額・円換算)= 譲渡損益

この譲渡損益には、株価・価格の変動による損益と為替差損益の両方が含まれますが、すべて譲渡所得として一体で計算されます。

(参考:国税庁質疑応答事例「外貨建取引による株式の譲渡による所得」)

実務上の重要な注意点

被相続人の取得時の記録が必要

譲渡所得を正確に計算するには、被相続人がいつ、いくらで取得したかの記録が必要です。

具体的には:

  • 取得時の外貨建て価格
  • 取得時の為替レート
  • 取得時の円換算額

しかし、実務上は何十年も前の取引記録が残っていないことも多く、証券会社に照会しても古い取引履歴は確認できない場合があります。

記録が不明な場合の対応については、税理士に相談することをお勧めします。

特定口座での取扱い

外貨建てMMFは、2016年の税制改正以降、公社債投信として申告分離課税の対象となっています。

特定口座(源泉徴収あり)で管理している場合、為替差益を含めた譲渡損益が自動的に計算・源泉徴収されます。

外国株式についても、特定口座で管理している場合は同様です。

証券会社から送られる年間取引報告書に譲渡損益が記載されているので、確認してください。

円換算特約付き外貨建て生命保険

外貨建て生命保険の中でも、「円換算特約」や「円貨支払特約」が付いている契約は、見落とされやすい論点です。

なぜ為替差損益が問題になるのか

円換算特約が付いている外貨建て生命保険では、保険金が円で支払われます。

そのため、「円で受け取るから、為替リスクはない」「相続税の申告で終わり」と考えてしまいがちです。

しかし、為替差損益が所得として問題になります。

理由は、評価と支払いで使うレートが異なるためです:

相続税評価:死亡日のTTB
実際の受取額:支払処理日のレート

この2つのレートが異なる場合、差額が生じます。

具体例:

  • 外貨建て生命保険:40万ドル
  • 死亡日:2025年7月20日
  • 死亡日のTTB:1ドル=150円
  • 相続税評価額:40万ドル × 150円 = 6,000万円

円換算特約により、保険会社の支払処理日のレートで円換算

  • 支払処理日:2025年9月10日
  • 支払処理日のレート:1ドル=155円
  • 実際の受取額:40万ドル × 155円 = 6,200万円

差額:6,200万円 – 6,000万円 = 200万円

この差額の取扱いについて、東京国税局の見解が示されています。

保険金そのものは相続税の対象として申告されます。その評価は、相続開始日(死亡日)の為替レートで行います。

一方、実際の支払いは保険会社に請求書面が到着した日の為替レートで行われます。

この死亡日から請求書面到着日までの為替レートの変動による差額は、為替差損益として雑所得の対象になります。

(参考:東京国税局 課税第一部資産課税課 資産評価官 財産評価基本通達情報 第7号「財産評価疑義照会例集」令和7年6月作成)

円で受け取る契約だから、為替の心配はないと思っていました。

円換算特約付きの場合でも、死亡日評価(相続税)と実際の円での支払額の差は、為替差損益として雑所得の対象になります。

保険会社の支払通知書を確認し、申告前に税理士にご相談ください。

実務上の注意点

保険会社から送られてくる保険金支払通知書には、支払額(円)が記載されていますが、死亡日の評価額(相続税評価額)との差額については、自分で確認する必要があります。

相続税の申告書を見返して、保険金の評価額と実際の受取額を照合してください。

保険会社の通知書に「相続発生日(死亡日)のTTBで円換算した金額」が明示されている場合、その金額をそのまま相続税評価額として用いることができます。

支払処理日の呼称は保険会社によって「支払事由発生日」「支払決定日」など異なる場合がありますが、実際に円換算が行われる日を指します。

外貨建て生命保険を外貨で受け取る場合

円換算特約を付けずに、外貨のまま保険金を受け取る場合もあります。

為替差損益が発生するタイミング

外貨で保険金を受け取った時点では、まだ円転していないため、為替差損益は発生しません。

後日、外貨を円に換えた時点で、死亡日のレートと円転時のレートの差額が為替差損益として認識されます。

この為替差損益は、相続人の雑所得として扱われます。

具体例:

  • 外貨建て生命保険:40万ドル
  • 死亡日のTTB:1ドル=150円
  • 相続税評価額:40万ドル × 150円 = 6,000万円

外貨で受取り、その後円転

  • 円転時のTTB:1ドル=158円
  • 円転額:40万ドル × 158円 = 6,320万円

為替差益:6,320万円 – 6,000万円 = 320万円

この320万円は、相続人の雑所得として確定申告が必要です。

為替差損益の計算方法と所得区分

雑所得としての計算

為替差損益は、原則として雑所得に区分されます。

通常の資産運用の一環として生じた為替差損益であることが前提です。

計算式:為替差損益 = 円転時の受取額 – 死亡日の評価額(相続税評価額)

所得区分:雑所得

雑所得は、給与所得などと合算して総合課税されます。

20万円以下の場合の取扱い

給与所得者の場合、給与以外の所得が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要です。
為替差損益が20万円以下の場合、他に雑所得や一時所得がなければ、所得税の確定申告は不要となります。

ただし、住民税の申告は別途必要です。
20万円以下の確定申告不要制度は、あくまで所得税のみの特例であり、住民税には適用されないため、注意が必要です。

また、医療費控除などで確定申告を行う場合は、20万円以下の雑所得も含めて申告する必要があります。

為替差損が発生した場合

為替差損(損失)が発生した場合、原則として、同じ年の雑所得内での他の所得(他の為替差益など)と通算することができます。

ただし、給与所得など他の所得区分との損益通算はできません。

また、雑所得には「公的年金等」と「その他」の区分があり、区分をまたいだ通算には一定の制限があります。

具体的な通算の可否については、個別に確認が必要です。

資産タイプ別 為替差損益の取扱い

資産の種類 所得区分 取得費の考え方 申告のポイント
外貨預金 雑所得 死亡日の評価額
(相続税評価額)
円転時に為替差損益を計算
外貨建てMMF
外国株式
譲渡所得 被相続人の取得価額
(取得時のレートで円換算)
為替差益も含め一体で計算
特定口座なら自動計算
円換算特約付き
外貨建て生命保険
雑所得 死亡日の評価額
(相続税評価額)
死亡日評価と受取額の差額を確認
見落とされやすい論点
外貨建て生命保険
(外貨受取)
雑所得
(円転時)
死亡日の評価額
(相続税評価額)
外貨受取時点では申告不要
円転時に為替差損益を計算

※20万円以下の場合、所得税の確定申告不要の特例あり(住民税は別途必要な場合あり)

よくある誤解

誤解1:「円で受け取ったから為替差損益はない」

円換算特約付きの外貨建て生命保険でも、為替差損益は発生します。

死亡日の評価額と実際の受取額を確認してください。

誤解2:「相続税を払ったから、もう確定申告は不要」

相続税の申告と、相続人の所得税の確定申告は別の手続きです。

為替差損益は、相続人の雑所得として確定申告が必要になる場合があります。

誤解3:「外貨のまま保有していれば永久に申告不要」

外貨のまま保有している場合、為替差損益は未実現のため、その時点では確定申告は不要です。

しかし、円に換えた時点だけでなく、その外貨で別の資産を購入した時点でも、為替差損益が実現します。

「外貨のまま保有していれば何もしなくていい」と思い込んでいると、後日想定外の申告義務が生じることがあります。

誤解4:「外貨預金を保有したまま死亡したら、準確定申告で為替差損益を申告する」

外貨預金を保有したまま亡くなった場合、その時点では円に換えていないため、為替差損益は発生していません。

為替差損益が問題になるのは、相続人が相続後に円転または外貨で資産を購入した時点です。

まとめと次回予告

この記事で整理したこと

外貨建て資産を相続した場合、「いつ決済(円転・売却)が完了したか」によって、誰の所得になるかが決まります。

外貨預金:

  • 保有したまま死亡した場合、準確定申告で為替差損益を申告することは原則ない
  • 相続後に円転した場合、または外貨で別の資産を購入した場合、相続人の雑所得

外貨建てMMF・外国株式:

  • 売却時に為替差益も含めてすべて譲渡所得として計算

円換算特約付き外貨建て生命保険:

  • 死亡日評価と実際の円受取額の差額は、為替差損益として雑所得の対象になる

為替差損益の所得区分:

  • 外貨預金の円転:雑所得
  • 外貨建てMMF・外国株式の売却:譲渡所得
  • 円換算特約付き外貨建て生命保険:雑所得
  • 20万円以下の場合、所得税の確定申告不要の特例あり(住民税は別途申告が必要な場合あり)

相続税の申告が終わっても、為替差損益について相続人の確定申告が必要になる場合があります。
保険会社・証券会社からの通知を確認し、必要に応じて税理士に相談してください。

次回予告

次回は、相続人の譲渡所得について取り上げます。

相続した不動産や株式を売却した場合、「相続税を払ったのに、また税金?」と感じる方も多いでしょう。

しかし、取得費加算の特例や空き家3,000万円控除など、相続人の確定申告で使える重要な特例があります。

取得費の引継ぎルール、適用期限、併用可能な特例の組み合わせなど、実務的なポイントを整理します。

今回の為替差損益の考え方と合わせて読むことで、相続した財産を売却した場合の確定申告の全体像が見えてきます。

関連記事

相続発生後の確定申告については、以下のシリーズ記事もご参照ください。

これらの記事では、相続人の所得として確定申告が必要になるケースを整理しています。
第1回から順に読むことで、相続人の確定申告における全体像が見えてきます。

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