近年急増しているお一人様。
その生前対策には遺言に加えて死後事務委任契約(しご-じむ-いにん)の利用も考えたほうがいいことがあります。
死後事務委任契約に関する世間の認知はまだそれほど高くありません。
今回の記事では死後事務委任契約について基本的な事項を説明しました。
遺言書と死後事務委任契約
遺言によって法的効力を持たせることができる事項は、法律で認められた事項に限られます。
それ以外の事項はどうなるのでしょうか。
事項によっては死後事務委任契約によって法律的な効果を持たせることができるものがあります。
代表的な例が葬儀や埋葬方法の指定です。
遺言では祭祀主宰者(祖先のまつりごとを中心となって執り行う人)を指定することができます。ただしこれは誰が祖先の祭祀を主宰するかを指定できるに過ぎず、葬儀や埋葬の方法までは指定できません。
葬儀や埋葬の方法について遺言の付言に記載することは可能なのですが、法的効力は生じないため、遺言の通りに実行するかどうかは遺言書の読み手に委ねられます。
これでは不確実ですね。
もし「どうしてもこの方法で」という強い想いがあるなら、確実性を高める方法として、法的効果を持たせることができる死後事務委任契約の利用を検討しましょう。
死後事務委任契約
死後の事務に関する事項について、委任者が生前に、受任者との間で取り決めること
死後事務委任契約で委任できること
死後事務契約の委任事項については、法律に定めがあるわけではありません。
まだ判例も少なく、委任事項に含まれるのか否か、判断に迷うものもあります。
原則として、
- 委任者の葬儀や埋葬に関する事務
- 委任者の死後の身辺整理に関わる事務
は死後事務委任契約によって法的効果を持たせることができると考えていいでしょう。
この範囲を超える事項については、たとえ死後事務委任契約で取り決めても法的効力は生じません。
具体的な委任事項として以下が考えられます。
- 葬儀、埋葬、納骨に関する事務
- 関係者への死亡の連絡
- 病院や施設に対する未払費用の支払に関する事務
- 借家契約の解除
- 遺品の整理処分に関する事務
- 形見分けに関する事務
- 役所への届出事務
MEMO
法要や永代供養を死後事務委任契約の委任事項とすることもあります。
ただし法要や永代供養は長期にわたるため、死後事務委任契約によるときは合理的な範囲に期間の制限を設けるか、永代供養信託のような別の方法を検討してもいいでしょう。
死後事務委任契約の手続
死後事務委任契約の締結にあたって、特定の要式は定められていません。
しかし、委任者の死亡後に委任者の意思を明確に確認できる必要があるため、通常は、公正証書で死後事務委任契約書を作成します。
死後事務委任契約書の作成では留意すべき点が多々あるため、一般の方が自分で作成するのは難しいでしょう。
この分野に詳しい行政書士や弁護士、司法書士に契約書の作成を依頼できます。
死後事務委任契約は発展途上の新しい制度です。
受任者のモラルハザードなど予想される課題もたくさんあります。
それでも、お一人様が安心して生きるという目的において、死後事務委任契約は注目すべき有望な仕組みです。