自筆証書遺言の保管制度がスタート!
コロナウィルスの陰に隠れてあまり話題になっていませんが、かねてから待望されていた法務局での自筆証書遺言の保管制度が令和2年7月10日にいよいよスタートします。
「これを機に遺言書を書いておこうかな」と考えている方のために、この保管制度の利用にあたって一番重要な注意点をご紹介します。
それは、
形式チェックはしてくれる!
法務局の窓口では何をしてくれるのでしょうか?
遺言書の形式が法的な要件を満たしているかどうかのチェックをしてくれます。
自筆証書遺言は簡便とは言え法律文書ですので、エンディングノートのように自由に書いていいというわけではなく、法の定める様式に従っていないと無効とされてしまいます。
法律に詳しくない一般の方が自分で調べて書くのは大変です。自力で調べて書いたとしても、ミスなく書けたかどうかが死後になるまで分からないというのは博打のようでリスクがあります。
それが、法務局での保管制度を利用すれば、保管申請時の手数料が1件につき3,900円で形式のチェックが受けられるのです。
しかも、国が責任を持って保管してくれるので安心です。
税金を使って導入されたせっかくの制度ですから、ぜひ積極的に利用していただきたいと思います。
保管制度の落とし穴
ただ、これだけで自筆証書遺言が問題なく利用できるようになったかというとそうでもないのです。
法務局も明言しているように、この制度では内容のチェックは一切なし。遺言書に記載する内容の確認まではしてくれません。
世間には、法的要件を満たしていても役に立たなかった遺言書がごまんとあります。主な原因の一つは、書かれている内容がマズかったこと。
何がマズかったかは個々に異なりますが、代表的なものとして、財産に漏れがあった、遺留分を侵害していた、税務リスクのある分割方法になっていたといったミスが挙げられます。
法務局の保管制度を利用する場合、遺言書の内容面については、本を読んだりインターネットで情報収集して自分で検討する人が多そうです。
検討すべき点は個々の事情により様々です。民法や租税法の知識が必要になることもあります。内容チェックの難易度は、単なる形式チェックの比ではありません。
内容面での検討が不十分なままの遺言書が、形式上の不備が無いため窓口で受理されてしまうとどうなるでしょうか?
このような遺言書は時限爆弾のようなものです。遺言者が亡くなった後に問題が発覚します。
亡くなるまでの時差があるので、開始後しばらくは制度は支障なく運営されるでしょう。
法務局に預けられた遺言書を書いた人が亡くなり、その遺言書が実際に相続手続に使われるようになる数年後に色々な問題が発覚すると私は予想しています。
「法務局に預けたから安心した。でもこんなリスクがあったとは…」なんてことがあるかもしれません。
その時点で元気でいれば書き直せばいいだけの話ですが、絶対に生きているという保証は誰にもありません。
もし亡くなった後に遺言書の問題が発覚するとすれば、それは取り返しのつかない失敗です。
であればこそ、自筆証書遺言保管制度を利用するなら、遺言書の内容についての検討をくれぐれも慎重に行う必要がありますね。
遺言書の内容についての相談先
先ほど申し上げたように、遺言書の内容に関する検討は難易度が高い場合が多いです。
民法や相続税法に詳しくない一般の方が自分だけでやると、間違いや検討漏れがあるかもしれません。
遺言書で絶対に失敗したくないなら、自筆証書遺言書保管制度を利用する場合であっても、内容面については別途専門家への相談をおすすめします。
遺言書は法律文書の一種ですので、相談先は、法律資格を持つ専門家(行政書士、弁護士、司法書士)が最も適切でしょう。
なお、相続税や贈与税など税金がからむ相談は税理士しか応じることができません。遺言書に税金対策も織り込みたいなら、税金に関しては税理士に別途相談します。あるいは、弊所のように行政書士にも登録している税理士なら、相談先は一つですみます。