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本当は怖い相続発生後のATMからの引出し
夫が亡くなりました。
葬式代や生活費のために夫の口座からATMで現金を引き出したいのですが、気を付けたほうがいいことはありますか?
相続のご相談を受けていると、よく聞かれる質問です。
キャッシュカードのパスワードを知っていれば、本人でなくてもATMで簡単に引き出せることもあってか、当たり前のようにやっている人も多い印象です。
毎日銀行に通って短期間に何百万、何千万もの現金を引き出したという強者(?)もめずらしくありません。
みんながやっているから問題ない?
でも、これが本当にやっていい行為なのかというと、答えは
NO!
です。
正規の手続を踏まずに亡くなった方の口座から預金を引き出すのは、違法行為です。
できることなら、やらない方がいい。
今回の記事では、その理由と代わりとなる手続について説明します。
ATMからの引出しがNGなわけ
なぜやらないほうがいいかというと、
からです。
口座の名義人でないことを知らなかった銀行は免責されますが、引き出した本人は免責されません。
具体的にいうと、
- 相続放棄ができなくなる危険がある
- 引き出したことで他の相続人とトラブルになる危険がある
ということになります。
1つずつ、解説しましょう。
1つ目。
亡くなった直後ですと、遺産の全体像がまだ明確に把握できていないケースが多いでしょう。
調べてみて初めて、多額の借金があったことが発覚するケースもあります。
マイナスの財産がプラスの財産を上回るなら、相続放棄を検討することになります。
しかし、それ以前に預金の引出しをしていると、単純承認といって、「資産も負債もすべて相続する」と自ら承認したとみなされてしまい、相続放棄できない可能性があるのです。
2つ目。相続人が1人だけなら問題ありませんが、相続人が複数いる相続では、相続人の1人が独断で口座からお金を下ろすと、後で他の相続人とトラブルになる可能性があります。
遺産分割協議がまとまりにくくなる、あるいは場合によっては、他の相続人から不当利得返還請求(または不法行為に基づく損害賠償請求)を受けることになるかもしれません。
一家の大黒柱が亡くなったときなどは特に、遺族にお金の不安がどっと押し寄せてくるかもしれません。
あせるあまり、ATMで現金を引き出してしまった、という気持ちは分かるのです。
でも、そのことで目前のお金よりももっと大きなトラブルに巻き込まれてしまう危険があります。
他ならぬ自分の身を守るため、なるべくなら、亡くなった人の口座からATMで引き出すのは止めましょう。
預貯金の仮払い制度
といっても、手持ちの現金がまったくなく、このままでは葬式代や当座の生活費にも困ってしまうという人もいるでしょう。
そういう人向けに、
というものがあります。
これは、民法改正により2019年7月1日から適用が開始された新しい制度です。
法定相続人であれば、遺産分割前でも限度額まで口座から出金することができます。
金融機関ごとに、
- 死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1
- 150万円
のいずれか低い方が限度額となります。
従来、銀行口座が凍結されると、葬式費用や当座の生活費に困ってしまうケースが多かったことから、この制度が新設されました。
でも、この制度には欠点があります。
出金までに時間がかかることがあるのです。
仮払いを申請する際には、法定相続人を確定するための資料として、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍の束、あるいはそれを要約した法定相続情報一覧図を提出する必要がありますが、その準備に一定の時間を要します。
私の経験では、一生分の戸籍がすんなり揃うことのほうが稀で、早くて1週間、長くて2~3か月は必要です。
なので、現状では残念ながら、葬式費用や当座の生活費といった本当に緊急の資金需要に関して、この制度に過度な期待は禁物といえます。
やむを得ず引き出す時の注意
仮払い制度の利用を待っていたら間に合わないので、ATMからお金を引き出さざるを得ないという人もいるでしょう。
この場合、先に説明したように、引き出した本人がその行為に責任を負うことになるリスクがある、というのが肝です。
そのリスクを引き下げるための対策は打っておくべきだと思います。
やむを得ない事情により、亡くなった方の口座からATMでお金を引き出して使うときは
何にいくら使ったのか
他の相続人にきちんと説明できる形で記録を残します。
領収書があれば必ず取っておきます。
そのうえで、遺産分割協議のときにこの資料を提示し、相続人全員が合意すれば、使った分を相続財産全体または自分の相続分から差し引くことになります。
生前の対策
本当は、相続発生後に必要となるお金は、生前に準備しておくのが一番安全なのです。
日常の支払いの多くを家族の誰か名義の口座から引き出して使っているなら、その家族が亡くなると葬式代や当面の生活費に困ることは目に見えています。
本人の同意のうえで、あらかじめ口座から引き出して現金化しておきましょう。
あるいは、
- 生命保険に加入しておく
- 遺言の中で預金の解約権限を持つ遺言執行者を指定しておく
という対策もいいと思います。
死亡保険金は短期間で受取可能ですし、検認不要な形で遺言書を残しておけば、遺言執行者がすぐに解約手続を執ることができます。
まとめ
相続発生後のATMからの引出しは、亡くなったことを銀行が知らない限り実行できてしまいますし、家族が亡くなった直後はお金の不安に襲われがちなこともあって、気軽にやってしまうケースが多いようです。
でも、実際にはそのことで思わぬ災難が降りかかる危険があります。
- 100万円を引き出したばかりに、故人の借金を肩代わりすることになったり
- 200万円を引き出したばかりに、他の相続人から不信感を持たれて遺産分割で揉めたり
そうなっても構わないなら、自己責任で引き出してもいいかもしれませんが、決してお勧めはしません。
間に合うなら、生前の対策を講じておく。
やむを得ず死後に引出すなら、他の相続人に説明できる証拠を残しておくことを心掛けましょう。
遺産分割協議が終われば、特に制約なく、解約して出金することができますよ。