相続遺言相談室 on the web
自分の財産を相続させたくない子がいて、今のうちから相続放棄の念書を書かせています。
相続の相談を受けていると、家族に相続放棄の念書を書かせたと仰る方が驚くほど多いです。
相続放棄を受け入れた証拠として書面に残しているので大丈夫ですよね、と確認を求められます。
結論を先に言うとまったく大丈夫ではありません。
念書を書いた本人が遺産分割協議で同意せず、遺産分割協議書に判子を押してくれなければハイそれまで。
もしあなたが特定の相続人に遺産を渡さないつもりなら、念書では足りません。
じゃあそれ以外の方法はあるのか?
以下の記事をお読みください。
生前の相続放棄は無効
相続放棄とは、亡くなった方の残した財産について、プラスの財産もマイナスの財産も含めて法定相続人が相続しないことをいいます。
相続放棄は家庭裁判所に申述して行うのですが、この申述は相続が開始してからでないと認められません。
そのため生前の相続放棄はできない仕組みになっているのです。
推定相続人の廃除
生前の相続放棄をしたいというよりも「特定の子に相続させたくない」というのが相談者の本来の意図だと思われます。
そこで相続放棄以外で相続させない方法はないか、考えてみます。
生前に家庭裁判所に請求して、その子の相続権を喪失させるという方法があります。これを推定相続人の廃除といいます。
廃除が認められれば、推定相続人は相続人の地位を剝奪され、一切の相続権を失います。
ただしこの制度は利用のハードルがものすごく高い。滅多なことでは認められません。
世話をしてくれなかったからとか、たまたま親子げんかで対立したといった程度ではダメ。
日常的に虐待されたりひどく侮辱されていた、著しい非行があったといった深刻な理由が求められます。
もし本当にこれらの深刻な理由で遺産を渡したくないと考えているなら、念書ではなく推定相続人の廃除を検討すべきです。
遺留分の放棄
実際の相談を聞いていると、推定相続人の廃除が認められるような理由で遺産を渡したくないと考えているケースは稀です。
「お嫁さんが気にくわないのであの子には財産を渡したくのよね」といった程度の動機が多いように思います。
もちろん相談者ご本人にとっては重大な理由なのですが、推定相続人の一切の相続権を奪うまでの理由にはならないというのが法律の考え方です。
この場合、次に考えるのは遺留分の放棄です。
推定相続人が親や子であれば、最低限の取り分として遺留分が認められています。
遺言書があれば財産を自由に分けることができます。ただし、遺留分を持つ相続人に対して遺留分を侵害している場合、請求があればその分は渡さなくてはいけません。
この遺留分を生前に放棄してもらう制度があります。それが遺留分の放棄です。
遺留分を放棄すると、遺留分侵害額請求をする権利を失います。
ただし推定相続人の廃除ほどではありませんが、この制度も利用のハードルが非常に高い。
遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要です。
簡単に認めてしまうと遺留分権者の生活の安定や財産の公平な分配が脅かされる危険があるため、慎重に審査するのです。
審査の判断基準として
・放棄が遺留分権者の意思によるものである
・放棄の理由に合理性・必要性がある
・放棄する代わりに贈与などを受けている
などが考慮されます。
これらの要件を満たすって、どう考えても難しいですよね。
実際、許可が下りるケースは年間で900件程度しかありません。
そもそも遺留分の放棄を家庭裁判所に申し立てるのは、遺留分を放棄する本人です。
親の一方的な判断でできることではありません。
遺留分の放棄が子にとって何らメリットのない話しであれば、手続に協力してくれないのが普通でしょう。
なので、特定の子に財産を渡したくないときの念書に代わる方法として、遺留分の放棄も現実的な選択肢とはなりにくいです。
遺言書で取り分を引き下げる
特定の子に遺産が渡らないよう自分が元気なうちに手配しておきたい。でも念書もダメ、推定相続人の廃除もダメ、遺留分の放棄もダメなら、どうすりゃいいの?
このお悩みに対する回答はこうです。
でも対策によって取り分を引き下げることはできる。
ここで対策の要となるのは遺言書です。
遺言書で遺留分にあたる財産を相続させると書いておけば、遺留分以上の財産を請求することはできません。
遺言書がなければ、争いになった場合、法定相続分を渡す結果となります。
親から子への相続の場合、遺留分と法定相続分は2倍違います。
遺言書を書くだけで、渡さざるを得ない財産の額を半分に押さえることができるのです。
法律的な効果の一切無い念書でお茶を濁すよりも、ずっと現実的で賢明な方法といえるでしょう。
MEMO
遺言には財産をあげたくない人の取り分を減らせるという効果があります。この効果はなぜか過小評価されています(妥協に思えてしまうから?)が、金額でいうと数千万、数億の差が出ることもあるので、もっと注目されてもいい点です。
本気なら遺言書を作りましょう。