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確定申告期だからこそ確認したい——税理士が自分の入院で気づいた、医療費控除の新常識

医療費控除は、確定申告の中でもっとも論点が多い控除のひとつです。
制度は毎年少しずつ変わり、所得や家族の状況によって正解が変わり、デジタル化やキャッシュレス化の影響まで受けている。
相続税専門の税理士として、毎年確定申告期には医療費控除のご相談をいただきます。
それ自体はよくあることなのですが、毎回「複雑すぎる」と感じるのです。
他の所得控除と比べて、論点が多すぎる。そして、毎年少しずつ制度が変わる。
数年前、大病をして大学病院に入院・手術をしました。
そのとき初めて、病院の後払いサービスというものを使いました。
スマートフォンで登録してクレジットカードを紐づけておくと、会計窓口に並ばずにそのまま帰れる仕組みです。支払い後はメールで通知が届き、カードの利用明細にも記録が残ります。
現金で払っていた頃と違って、カードの利用明細に誰が払ったかが記録として残る。そのことに、税理士として改めて気づかされました。
なぜ医療費控除はこんなに複雑なのでしょうか。私なりに整理すると、こういうことだと思います。
論点自体が細かく多い。
制度が毎年少しずつ変わる。
デジタル化・キャッシュレス化が手続きや証跡に影響している。
そして、家族構成や所得の状況によって正解が変わる。
この4つが重なっているので、「ちょっと調べれば全部わかる」という話にならないのです。
便利になったようで実はそうでもない——それが医療費控除の現実です。
そこで今回は、私自身の体験や日々の相談業務で気づいたことを踏まえて、医療費控除の「今の常識」をまるごと整理してみます。
確定申告の前に、ぜひチェックしてみてください。
① 誰の医療費を、誰が控除できるのか——よくある誤解から始めよう
まず、最も誤解が多い論点から始めます。
「医療費控除は、家族の中で一番所得の高い人の所得から控除するといいですよ」
こういうアドバイスを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、所得が高い人ほど適用される税率が高いので、控除の節税効果は大きくなります。その意味では合理的な発想です。
ただし、制度の正確な理解としては誤りです。
所得税法第73条の定めはシンプルです。「納税者本人が支払った医療費」が控除の対象になります。
生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費も含めてよい、とされていますが、あくまで実際に支払った人の所得から控除するというのが原則です。
所得が高いからといって、別の家族が支払った医療費を自分の申告で控除することはできません。

夫の所得から医療費控除を申告したいんですが、領収書はこちらです。



この医療費、ご主人が払われたものですか?



いえ、私が払いました。夫のほうが所得が高いので、そちらで申告した方が得かと思って



お気持ちはわかるんですが、それはできないんです。
実際に支払った方の所得から控除するのが原則なので、この場合はあなたの申告に入れることになります



えっ、そうなんですね……知りませんでした
こういったやりとりは、確定申告の時期に実際によくあります。
「生計を一にする」とは何か
もう一点、誤解されやすいのが「生計を一にする」という要件です。
「生計を一にする」とは、日常の生活費を共にしていることを指します。必ずしも同居が要件ではありません。たとえば、実家を離れて一人暮らしをしている子どもの医療費でも、仕送りをしていて生活費を共にしていると認められれば、親の医療費控除に含めることができます。
また、「扶養控除の対象になっている」かどうかは関係ありません。扶養控除の対象外であっても、生計を一にしている親族の医療費であれば、控除に含めることができます。
② 「10万円を超えないと申告できない」は本当か
「今年の医療費、10万円に届かなかったので申告しても意味ないですよね?」
こういうご相談も多いです。でも、これも正確ではありません。
医療費控除の控除額の計算式はこうなっています。
(支払った医療費の合計額)−(保険金などで補填された金額)−(10万円または総所得金額等の5%のいずれか低い金額)
ポイントは最後の「10万円または総所得金額等の5%のいずれか低い金額」という部分です。
総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく「総所得金額等の5%」が基準になります。
つまり、所得が少ない方ほど、より少ない医療費の支出から控除を受けられるのです。
| 総所得金額等 | 控除の基準となる金額 |
|---|---|
| 200万円以上 | 10万円 |
| 150万円 | 7万5千円(150万円×5%) |
| 100万円 | 5万円(100万円×5%) |
| 60万円 | 3万円(60万円×5%) |
パートで働いている方や、年金収入が少ない高齢の方には特に関係が深い論点です。
「年収」と「所得」は別物です。
給与所得控除が差し引かれた後の金額が「所得」になるため、給与所得のみの方の場合、総所得金額等200万円未満に該当するかどうかは、年収だけでは判断できません。
「医療費はそんなにかかってないから、自分には関係ない」と思わず、一度ご自身の総所得金額等を確認してみてください。
具体的に言うと、総所得金額等が100万円の方なら、医療費が5万円を超えれば控除の対象になります。
「10万円に届かないから無理」と思っている方の中に、実は申告できるケースが隠れています。
「医療費が10万円に届かなかったから申告しなかった」という方の中に、実は申告できたケースが隠れていることがあります。
相続案件でご両親の税務を整理するときに、こうした見落としが出てくることも少なくありません。
③ 医療費から差し引くものがある——保険金・給付金の扱い
医療費控除の計算では、支払った医療費の合計額から「補填される金額」を差し引く必要があります。
見落としやすい論点ですが、これを把握せずに申告すると過大控除になるリスクがあります。
差し引く必要があるものの代表例は、生命保険の入院給付金・手術給付金・通院給付金、高額療養費、健保組合の付加給付、高額介護サービス費などです。
一方、以下のものは差し引く必要がありません。「補填」ではなく別の性質の給付だからです。
- がん診断給付金・三大疾病保険金・特定疾病保険金——診断が確定したことに対して支払われるもので、特定の医療費に対応していない
- 傷病手当金・出産手当金——給与の代替として支払われるもので、医療費の補填ではない
- 入院見舞金——儀礼的な性質のもので、医療費の補填ではない
- 就業不能保険の給付金——働けないことに対して支払われるもので、医療費の補填ではない
※ただし給付の内容・名称は保険商品によって異なります。「これは差し引くべきか」と迷う場合は、給付の趣旨を確認することが重要です。
| 給付金・保険金の種類 | 差し引く | 差し引かない | 理由 |
|---|---|---|---|
| 入院給付金・手術給付金・通院給付金 | 必要 | — | 特定の医療費に対応する補填 |
| 高額療養費・付加給付金 | 必要 | — | 医療費の補填を目的とした給付 |
| 高額介護サービス費 | 必要 | — | 介護費用の補填を目的とした給付 |
| がん診断給付金・三大疾病保険金 | — | 不要 | 診断確定に対して支払われるもの。特定の医療費に対応しない |
| 傷病手当金・出産手当金 | — | 不要 | 給与の代替として支払われるもの |
| 就業不能保険の給付金 | — | 不要 | 働けないことに対して支払われるもの |
| 入院見舞金 | — | 不要 | 儀礼的な性質のもの。医療費の補填ではない |
差し引くのは「対応する医療費から」だけでいい
ここで重要なのが対応関係です。
たとえば30万円の入院費に対して50万円の保険金を受け取った場合、その入院費30万円からだけ差し引けばよく、超過した20万円を他の医療費から追加で差し引く必要はありません。
補填額が医療費を超えても、その医療費についてはゼロとして扱うだけです。
実は私自身、大病で入院・手術をしたときも、生命保険の給付金を差し引いたら控除できる金額が残りませんでした。医療費は相当かかったのに、結局申告しても意味がない状態になってしまった。医療費を苦労して集計しても無駄だったいうわけです。
年度をまたいで保険金が支払われる場合
もう一つ、重要な論点があります。
医療費を支払った年と、保険金や給付金の支払いが確定する年がずれる場合です。
たとえば12月に入院して医療費を支払ったが、保険金の支払いが翌年1月になった、というケースがあります。
この場合、保険金の支払いがまだ確定していなくても、見積額で差し引いて申告する必要があります。
「まだ受け取っていないから差し引かなくていい」とはなりません。
後から実際の保険金額が見積額と異なった場合は、修正申告または更正の請求で対応します。
年末に入院・手術をされた方は特に注意が必要な論点です。
④ 手続きはこんなに変わった——領収書を提出する時代は終わっている
「領収書をぜんぶ持ってきました」
毎年、こうして領収書の束を持参してくださる方がいます。
お気持ちはありがたいのですが、実は確定申告の際に領収書を提出する必要はなくなっています。
平成29年分(2017年分)の確定申告から、手続きが大きく変わりました。
それ以前は、確定申告の際に医療費の領収書を提出または提示する必要がありました。
現在は、領収書の代わりに「医療費控除の明細書」を作成して添付することが義務付けられています。
領収書そのものは提出不要ですが、捨ててよいわけではありません。
税務署から確認を求められた場合に備えて、確定申告期限から5年間は自宅で保管しておく必要があります。
書面申告と電子申告(e-Tax)で手続きが違う
手続きの違いは、書面で申告するか電子申告をするかによっても変わります。
| 書面申告 | 電子申告(e-Tax) | |
|---|---|---|
| 医療費控除の明細書 | 申告書に添付して提出 | データで送信 |
| 医療費通知(医療費のお知らせ) | 原本を添付すれば明細書の一部を省略可 | マイナポータル連携で自動取得可能な場合あり |
| 領収書 | 提出不要・5年保管 | 提出不要・5年保管 |
電子申告の場合、マイナポータルと連携すると医療費通知情報を自動的に取得して申告書に自動入力できます。ただし、これには注意点があります(次のセクションで詳しく説明します)。
④ 「医療費のお知らせ」の落とし穴
多くの方が加入している健康保険組合から、毎年「医療費のお知らせ」(医療費通知)が届きます。
「これがあれば楽に申告できる」と思っている方も多いのですが、実は使い勝手にクセがあります。



健保から「医療費のお知らせ」が届いたので、これをそのまま使えばいいですよね?



何月分まで記載されていますか?



えーと……1月から11月分って書いてあります



12月分が抜けていますね。12月に病院に行かれましたか?



あ、行きました。年末に風邪をひいて……



その分は別途、明細書に自分で記載する必要があります
年末分が反映されていないことがある
医療費通知は、健保組合が作成・発送するタイミングの制約から、年末分(11月・12月など)が未反映のことがあります。
確定申告で必要なのは1月から12月の支払ベースの金額ですが、通知の発行スケジュール上、年末分を間に合わせることが難しい健保も多いのです。
なお、マイナポータル連携を使う場合、確定申告用の1年分の医療費通知情報は、例年2月9日頃に一括で取得可能になります。
つまり、紙の「医療費のお知らせ」では12月分が間に合わないことがあっても、マイナポータル連携であれば12月分を含む1年分のデータを取得できます。
この点は、マイナポータル連携の大きなメリットの一つです。
ただし、医療機関からのレセプトの遅れ等で一部反映されていない場合もあるため、手元の領収書との突合は確実です。
年末分が抜けていないか、必ず確認するようにしましょう。
健保によって使えないケースがある
医療費通知を確定申告の添付書類として使うには、一定の記載事項(被保険者の氏名、療養を受けた年月、療養を受けた者の氏名、療養を受けた病院等の名称、医療費の金額など)が必要です。
健保によってはこれらが記載されていない場合があり、そのままでは使えないことがあります。
マイナポータル連携の便利さと注意点
電子申告を利用する方は、マイナポータルと連携することで医療費通知情報を自動取得し、申告書に自動入力できます。
医療機関ごと・受診月ごとのデータが一件ずつ読み込まれるので、個別の確認や修正がしやすいのがメリットです。
なお、マイナポータル連携をしていなくても、手元の医療費通知(紙)の合計額を明細書に入力すれば申告はできます。
合計額を入力するだけなので、それ自体は大した手間ではありません。 連携のメリットは「一件ずつのデータが自動で入る」という点にあります。
連携設定にはマイナンバーカードが必要です。
さらに家族の医療費通知情報を取得するには、事前にマイナポータルで代理人の設定が必要です。
配偶者や子どもの分を取得したい場合は、申告の前に設定を済ませておく必要があります。
マイナポータルに連携していない場合の現実
マイナポータル連携をしていない方も少なくありません。
マイナンバーカードを持っていない、持っていても設定が面倒で手をつけていない、税理士に申告を依頼しているので自分でe-Taxを使わない——理由はさまざまです。
ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。
マイナポータル連携をしていなくても、e-Taxで申告する場合は、医療費通知の記載内容(合計額)を明細書に入力して送信すれば、医療費通知の原本を税務署に郵送する必要はありません。
原本は5年間自宅で保管しておけば足ります。 これは令和3年分の確定申告から認められた取扱いです。
実は私自身、以前e-Taxで医療費控除を申告した際に、医療費通知の原本を別途郵送した経験があります。
おそらく令和2年分以前の申告だったのだと思います。当時はマイナポータル連携がまだなく、XMLデータを電子的に提出するには健保組合のシステムから自分でダウンロードする必要がありました。
その手順が面倒で結局やらなかったため、紙で郵送するしかなかった。「なんで電子申告なのに郵送?」と思いましたが、面倒がった自分のせいでもありました。
令和3年分からは、XMLデータがなくても合計額を入力するだけで郵送不要になりました。
さらにマイナポータル連携も始まり、e-Taxの手続きの中で医療費通知情報が自動的に取り込まれるようになっています。この点は、制度として確実に改善されています。
税理士に依頼しているケースでも、マイナポータル連携を使わないのであれば、お客様から紙の医療費通知を預かって合計額を入力するだけです。 実務上はそれほど困りません。
ご自分で申告するケースも同様で、医療費通知に載っている分は合計額の入力だけで済みます。
国税庁の「医療費集計フォーム」(Excelファイル)に事前に入力しておいて読み込ませる方法や、確定申告書等作成コーナーで直接手入力する方法もありますが、医療費通知の分だけであれば大きな手間にはなりません。
手間がかかるのは、医療費通知に載っていない分の入力です。 交通費、自由診療の費用、通知の期間に含まれていない月の分——これらは一件ずつ入力する必要があります。 これはマイナポータル連携をしていても同じです。連携で自動取得できるのは健保が把握している情報だけで、通院交通費は対象外だからです。
定期的に通院していた方は交通費の件数がかなりの数になることもあり、この作業だけでも相当な手間になります。 「マイナポータル連携したから楽になった」と思っていても、交通費の入力が残っている以上、電子申告での医療費控除はそれなりに手間がかかる、というのが正直なところです。
制度は着実に前に進んでいます。 でも「全部デジタルで完結」にはまだ届いていない——それが、医療費控除の現在地です。
e-Tax +
マイナポータル連携あり
最も効率的だが、家族分は事前に代理人設定が必要
e-Tax +
マイナポータル連携なし
医療費通知の分は合計額入力だけで済む。手間がかかるのは通知に載っていない分の入力
税理士に依頼
医療費通知を税理士に預ければ合計額の入力で済む。マイナポータル連携が使えなくても実務上は大きな支障はない
⑥ キャッシュレス化で変わった「誰が払ったか」問題
冒頭でお話しした、私自身の入院のときのことです。
大学病院への支払いをクレジットカードで行いました。はじめてのことでした。
それまでは医療費は現金で払っていたので、意識したことがなかったのですが、カード払いにしたことで「誰のカードで払ったか」が明確な記録として残ることになりました。
これが、医療費控除の実務に大きな変化をもたらしています。
以前は、医療費の領収書はただの紙切れでした。
「誰が払ったか」を証明するものは特になく、家族の誰かがまとめて保管して申告する、という慣行があったことも事実です。
所得が高い家族の申告に入れてしまう、ということが実態として行われていたケースもあったと思います。
しかし今は、クレジットカードやスマートフォン決済の明細に、誰のカードで・いつ・どこで支払ったかがすべて記録されます。
「誰が払ったか」が可視化される時代になったのです。
制度の原則は変わっていません。実際に支払った人の所得から控除する。
ただ、その原則が以前より厳密に問われやすい環境になっている、ということです。
厳密に言えば、「誰のカードで払ったか」という形式だけでなく、「実質的に誰の財布から出たか」が問われます。
カードの名義が本人でも、引き落とし口座への資金を別の家族が出している場合は、実質的な支払者が異なると判断されうることがあります。
ただ、こうした判断は複雑になりますし、何より「誰が払ったか説明できる状態にしておく」ことが今の時代には求められます。
家族カードの場合はどうなるか
ここで少し複雑な論点があります。家族カードを使って医療費を払った場合です。
家族カードは、法律上の支払義務者は本会員です。
家族会員は本会員の信用枠を使って決済しているに過ぎないので、実質的に支払っているのは本会員という整理になります。
家族カードは、カード会社との契約上は本会員が支払義務を負い、引き落とし口座も本会員名義の口座から引き落とされます。
その意味では「本会員が支払った」と整理しやすい面があります。
ただし、税務上「誰が支払ったか」の判断は、名義や引き落とし口座だけでなく、家計負担の実態も含めて総合的に見られることがあります。
「家族カードだから必ず本会員の控除になる」と断言できるものではありません。
家族カードを使った医療費については、名義・引落口座・家計負担の実態を整理したうえで、誰の所得から控除するかを慎重に判断してください。
不安な場合は税務署に確認することをお勧めします。
⑦ セルフメディケーション税制——通常の医療費控除との「選択」を忘れずに
医療費控除の特例として、市販の対象医薬品(スイッチOTC医薬品など)の購入額が12,000円を超えた場合に最大88,000円を所得控除できる「セルフメディケーション税制」があります(2026年12月31日まで)。
通常の医療費控除とどちらか一方しか選べず、申告後の変更もできません。
また、健診や予防接種など「一定の取り組み」を行っていることが要件です。
正直に言うと、私はこの制度を実際に選択したお客様を見たことがありません。
病院にかかっていれば通常の医療費控除の方がほぼ確実に有利なので、この制度が活きるのはかなり限られたケースです。
それでも、申告前にどちらで申告するか一度確認しておくことをお勧めします。
⑧ 介護保険サービスと医療費控除——よく聞かれる論点
「親が介護保険サービスを使っているのですが、医療費控除に入れられますか?」
これも確定申告期に多いご相談です。
答えは「サービスの種類と事業者によって異なります」です。
大まかに言うと、医療行為に近いサービスは対象になりやすく、生活支援中心のサービスは対象外になりやすい傾向があります。
ただし、個別サービスや複合型サービス、医療系の通所サービスなど、細部は非常に多岐にわたります。「うちの親が使っているサービスは対象になるか」という判断は、一般論では答えが出ません。
最も実用的な確認方法は、領収書を見ることです。
介護保険サービスの領収書には「医療費控除対象額」が明記されているものが多く、その金額をそのまま使うことができます。
まずは手元の領収書を確認してみてください。
確定申告前のチェックリスト
ここまでの内容をチェックリストにまとめました。確定申告の前にひと通り確認してみてください。
誰の医療費を、誰が控除するか
- 医療費を実際に支払ったのは誰かを確認したか?
- 生計を一にする家族の医療費を合算する場合、「実際に誰が払ったか」を整理したか?
- クレジットカード払いをした場合、誰のカードで支払ったか把握しているか?
- 家族カードを使った場合、本会員・家族会員の整理をしたか?
控除できる金額の確認
- 今年の総所得金額等は200万円を超えているか?(未満なら5%基準が適用される)
- 保険金や高額療養費など、補填される金額を差し引いたか?
- 介護保険サービスの利用がある場合、対象かどうか確認したか?
手続き・書類の確認
- 「医療費控除の明細書」を作成したか?(領収書でなく明細書を添付する)
- 「医療費のお知らせ」に12月分が含まれているか確認したか?(含まれていない場合は別途記載が必要)
- 電子申告でマイナポータル連携を使う場合、家族分の代理人設定を事前に済ませたか?
- 領収書は5年間保管する準備ができているか?
セルフメディケーション税制との選択
- 通常の医療費控除とセルフメディケーション税制、どちらで申告するか確認したか?
- セルフメディケーション税制を選ぶ場合、健診や予防接種など一定の取り組みの記録はあるか?
- 選択後は変更できないことを確認したか?
⑨ 確定申告が不要でも、住民税申告で医療費控除できる
確定申告をする必要がない方でも、住民税の申告で医療費控除を受けられるケースがあります。
たとえば年金収入のみで所得税の課税所得がゼロになる方でも、住民税では控除額の計算が異なるためわずかに課税所得が残ることがあり、そこに医療費控除を適用すれば住民税を下げられる場合があります。
確定申告をすれば住民税にも自動的に反映されるので、住民税申告が別途必要になるのは確定申告をしていない方に限ります。
また、そもそも住民税が非課税の方には効果がありません。
親が年金生活で医療費がかさんでいる、という方は特に確認してみてください。
相続が発生した後の税務整理をしているときに、過去の住民税申告の見落としが出てくることもあります。
親が年金生活で医療費がかさんでいる、という方は特に確認してみてください。
相続が発生した後の税務整理をしているときに、過去の住民税申告の見落としが出てくることもあります。
まとめ
医療費控除は、一見シンプルな制度に見えて、実は論点が多い。
制度は毎年変わり、デジタル化・キャッシュレス化の影響も受け、家族の状況によって正解が変わる。
デジタル化は着実に進んでいます。
以前はXMLデータを取得できなければ、電子申告しても医療費通知を紙で郵送する必要がありましたが、令和3年分からは合計額の入力だけで郵送不要になりました。
マイナポータル連携を使えば12月分を含む1年分のデータを自動取得できるようにもなっています。
ただ、通院交通費や自由診療の費用など、デジタル化ではカバーできない部分の手入力は依然として残っています。「全部デジタルで完結」にはまだ届いていない——それが現実です。
「デジタル化で楽になったはずなのに、なぜこんなに手間がかかるのか」と感じた方は、それは気のせいではありません。
ただ、その原因は二つあります。
一つは、通院交通費のようにそもそもデジタル化できない性質の情報が残っていること。
もう一つは、デジタル化の過渡期にいるために、手続きの条件分岐が増えていること。後者は、マイナポータル連携が当たり前になっていけば、いずれ収束していくはずです。
大前提として、医療費控除は申告主義です。
条件を満たしていても、自分で申告しなければ一切適用されません。
年末調整では対応できず、確定申告(または住民税申告)が必要です。「申告すれば受けられたのに、知らなかった」というケースが毎年起きています。
税理士である私でも混乱することがあると正直に書きましたが、だからこそ「なんとなく」で済ませてほしくないと思っています。
そしてもう一つ、正直にお伝えしたいことがあります。
医療費控除は、苦労する割に還付額が少ないと感じる方が多い控除でもあります。
医療費控除は所得控除です。
税金が直接戻るのではなく、課税所得が減った結果として税額が下がる仕組みです。
たとえば10万円を超えた医療費が10万円あったとして、所得税率が10%の方なら還付は1万円です。
書類を集めて明細書を作って申告して、戻ってくるのが1万円——「こんなものか」と感じる方がいるのは当然です。
だからこそ、申告するかどうかは「手間と還付額を天秤にかけて判断する」ことをお勧めします。
書類を集めて明細書を作る時間と手間に対して、実際に還付される税額が見合うかどうか。
医療費がわずかに10万円を超えた程度であれば、手間に見合わないと判断することも一つの合理的な選択です。
一方で、長期入院や高額な治療が続いた場合、親の医療費と介護費用が重なる場合は、きちんと申告すれば相応の還付が期待できます。
この記事で説明してきた手続きの複雑さや手間も、判断材料の一つです。申告を検討する際の参考にしてください。
「これは対象になるのかな」「誰の申告に入れればいいのかな」と迷ったときは、早めに確認することをお勧めします。
確定申告の一般的なご相談は、国税庁の「確定申告電話相談センター」やお住まいの地域の税務署でも対応しています。
私は相続税を専門としていますが、医療費控除の問題は避けて通れません。
相続が発生した後、相続人の方から「亡くなった親の医療費はどう扱えばいいのか」「過去の確定申告が正しかったか確認したい」というご相談をいただくことが少なくないからです。
医療費控除は所得税の話でありながら、相続税の計算密接に絡んでいます。相続税と所得税の間にまたがる論点として、相続専門の税理士でも常に意識しておく必要がある控除です。
税金の数字の向こうには、その人の生活があり、家族の物語があります。制度を正しく理解したうえで、納得して申告の判断ができるよう、この記事が少しでも役に立てば幸いです。
関連記事 相続発生後の医療費控除――支払った医療費はどの申告で使える?https://papillon-support.com/archives/15862
参考資料
本記事の作成にあたり、以下の資料を参照しています。
- 所得税法第73条(医療費控除)
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」
- 国税庁 タックスアンサー No.1119「医療費控除の明細書の添付等について」
- 国税庁 タックスアンサー No.1131「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」
- 国税庁「令和7年分 医療費控除の明細書」
- マイナポータル FAQ(医療費通知情報の取得時期について)
