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遺産を「あげる」の言い回しあれこれ-遺言書で失敗しないために
遺言書って法律文書の一種です。イメージとしては契約書に近い。
それなのに「お手紙のようなもの」と考えている人は少なからずいます。
専門家に相談せず自分だけで書いた遺言書を亡くなってから拝見すると、ずいぶんとくだけた言い回しが使われていることがあります。
故人の声が聞こえてくるような温かい文言ではあるのです。
でもお手紙ではなくわざわざ遺言書にしたのは、内容に法的な効果を持たせるためですよね?
言い回しの如何によってはその目的が達成されず、遺言書を作成した意味が無くなります。
この問題は特に遺産を「あげる」の言い回しで問題になることが多いです。
以下では遺言書を書くにあたって注意したい点をまとめました。
「あげる」の言い回しあれこれ
- 差し上げる
- 与える
- やる
- 譲る
などがあります。
「差し上げる」ってお上品でいい感じです。つい書いてしまいそう。
「やる」もバンカラ気取りでうっかり使う人がいるかも(笑)。
どれも遺言書の表現としては不適切ですので、これから遺言書を書く人は使わないようにしましょう。
さらに良くないのが、以下のような言い回しです。
- 委ねる
- 任せる
- 託す
遺言書は財産をあげたい人がいるときに書く場合がほとんどなのに、これでは意図がよく分からない。
受渡先を決めてもらいたいのか、管理だけしてもらいたいのか、単に「あげる」の持って回った言い回しなのか、はっきりしません。
遺言書で使うにはNGと心得てください。
遺言書で使うべき表現
財産を「あげる」意味で遺言書で使うべき表現は次の2つです。
- 相続させる
- 遺贈する
相続させる
法定相続人になると推定される人(推定相続人といいます)に財産をあげたいときは、
と書いておけば通常は問題ありません。
MEMO
プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多いなどで法定相続人が相続放棄をすることがあります。相続放棄を見込んでいる場合であっても遺言によって特定の財産を渡すことは可能です。その場合、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。
遺贈する
遺贈とは、遺言により遺言者の財産を無償で譲るという遺言者の意思表示です。
相手先が法定相続人であれば原則的に「相続させる」と書きます。
相手先が法定相続人以外のときは「遺贈する」と書いてください。
第三者に遺贈する場合は法定相続人と違って戸籍で特定できません。
相手先がはっきりしないと遺贈ができませんので、遺言書には続柄(例:姪、長男の妻)や住所などその人を特定できる情報もしっかり書いておきましょう。
相続手続における「相続させる」と「遺贈させる」の違い
「相続させる」と「遺贈させる」は単なる文言の違いではありません。
どちらの表現を使っているかで相続手続が異なることがあります。
具体的には、
- 不動産の所有権移転登記が単独でできるか?
- 相続による不動産の所有権移転を登記なしで第三者に対抗できるか?
- 遺産が借地権・借家権の場合に賃貸人の承諾が必要かどうか?
などで手続に違いが出てきます。
実際には「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべき」との判例があるため、「相続させる」と「遺贈させる」を間違っても問題にならないケースが多いです。
ただし「相続させる」ですむはずの場合に「遺贈する」と書いてしまうと不動産の登記手続がややこしくなることがあるため注意が必要です。
配偶者居住権
例外として、遺言書で配偶者居住権を設定したいときも注意してください。
配偶者居住権とは、自宅の持ち主が亡くなっても、その妻や夫である配偶者が引き続き自宅に住める権利のことです。
平成30年の民法改正によって新たに認められるようになった権利で、令和2年4月から施行されています。
遺言で配偶者居住権について書くときは、「相続させる」ではなく「遺贈する」を使いましょう。
これは、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しないときに、配偶者居住権の取得のみを拒絶し、他の財産は相続できるようにするためです。
「相続させる」と書いてしまうと、配偶者居住権の取得を拒絶したい場合に、一切の財産を相続放棄するほかないこととなり、配偶者の利益が害される危険があります。
また配偶者居住権を遺贈する遺言書を作るときは併せて遺言執行者も指定しておきましょう。
MEMO
遺言書で配偶者居住権を設定する場合は注意点が多く、自分一人で遺言書を書くのは危険です。事前に専門家に相談してください。
まとめ
遺言書を書くときは、手紙ではなく契約書のイメージを持っておくといいです。
契約書は法律の専門用語で書かれた専門文書です。
一般の人にとってほとんどなじみのないものだからこそ、用語のチョイスも含めてしっかり調べて慎重に書く-このような心構えでいると遺言書で失敗しないですみます。
○ 財産を相続させる、財産を遺贈する
あなた自身の言葉で想いを伝えたいなら、遺言書ではなくエンディングノートなど別の方法で。上手く使い分けてください。
ひとこと
このブログでは「遺言書は法律文書である」と繰り返しお伝えしています。一方で面白く思うのは、「相続」がそもそも宗教用語であるということ。
仏教でいう相続とはすべての現象が消滅しながら連続することだそうです。
個々の生命は刹那に消滅しながら連続することによって大きな生命を形作っている-このような思想が本来の相続にあるのだとすれば、法律という枠組みをはるかに超えるスケールの話しです。
遺言書における聖と俗というテーマはじっくり追いかけてみたい気がしますが、税理士が片手間にやるには壮大すぎるようです 😉