葬式費用はどこまで相続税で差し引ける?──お葬式・法要の費用と相続税の関係をやさしく解説

夫の葬儀に思った以上のお金がかかってしまって……。これって相続税の計算で引けるんでしょうか?

はい、“葬式費用”として一定の支出は控除できます。ただし、どんな費用でもOKというわけではないんですよ。

お葬式や法要には多くの費用がかかります。
相続税の計算では、これらのうち「葬式費用」として認められるものを相続財産から差し引くことができます。
金額が大きければ相続税額にも影響しますが、対象になるかどうかの線引きには注意が必要です。


目次

「葬式費用」とはどういうもの?

葬式費用は、亡くなった方の債務ではなく、遺族が社会的・慣習的に負担する費用です。
ただし、亡くなったことにより必然的に生じる支出であるため、相続税法では例外的に控除が認められています。

例外的に、ってどういうことですか?

本来は相続人の出費なんですが、“亡くなったことで避けられない費用”として特別に認められているんです。

国税庁の通達では、

葬式または葬送に際し、またはその前後に通常伴う費用で、相当と認められるもの

と定義されています。
つまり、次の3つを満たすものが対象です。

  1. 葬式の前後に支出されたもの
  2. 一般常識的に葬式に伴うと認められるもの
  3. 相続人が負担したもの

主な費用の判断基準(○△×)

ご臨終から葬儀まで

費用判定解説
遺体の安置・ドライアイス・花など葬式準備として認められます
ご遺体の運搬費用遠方・海外からでも対象
死亡診断書の発行料医師の証明書代も含まれます

海外で亡くなった場合の運搬費用も入るんですね。

はい。遺体や遺骨の運搬費は典型的な葬式費用のひとつです。


通夜・告別式

費用判定解説
葬儀社への支払い仮葬・本葬とも対象
飲食費(弔問客へのお茶・おつまみ等)常識的な範囲で可
お布施・戒名料・読経料領収書が出ない場合は支払先・日付・金額を記録
心づけ(受付・運転手など)メモで記録しておけば説明可
喪主の宿泊・交通費通達に明文はなく判断が分かれます。喪主本人の葬儀出席に必要な範囲なら可とされる例あり
花輪・生花代通常伴う範囲の生花は含まれ得るが、過大なものは不可
会葬御礼一般的な会葬御礼品(ハンカチ・タオルなど)は葬儀に通常伴う費用として認められることが多い。ただし香典返しと兼ねる場合は不可
香典返し×葬式費用に該当せず

お布施って領収書がなくても大丈夫なんですか?

はい。金額と支払先を記録しておけば説明できます。


火葬・納骨

費用判定解説
火葬・埋葬許可・還骨法要・精進落とし一連の流れとして認められます
初七日法要原則として法要費用は葬式費用に含まれません。ただし、告別式と同日に一体として行い、請求書の内訳が分離できないなど、葬儀に通常伴う費用と認められる場合に限り、実務上控除されることがあります。
納骨費用納骨は葬式費用に含まれます
墓石の彫刻代×納骨費用と区別して確認
樹木葬・散骨費用「埋葬・納骨」に当たる儀式部分のみ可

うちは初七日を葬儀と同じ日にしました。それも引けますか?

原則は対象外ですが、葬儀の一部として扱われるケースもあります。領収書の内訳で判断されるんです。


その他

費用判定解説
墓地・墓石の購入費×祭祀財産の取得であり対象外。ただし生前に購入すれば相続財産に含まれない非課税財産となります。

お墓代って高いのに控除できないんですね……。

そうなんです。相続税の“控除”ではなく、“もともと課税対象外の財産”なんです。


誰が払ったかによる可否(例外あり)

控除できるのは、相続人または包括受遺者が負担した葬式費用です。
相続財産から直接支払った場合も、「その者の負担に属する部分」として控除が認められます。
ただし、いくつか例外があります。


相続放棄をした人が支払った場合

うちの長男は相続放棄しましたが、葬儀代を一部出してくれました。それも控除できますか?

原則としてはできませんが、例外があります。

相続放棄をした人は、法的には最初から相続人でなかったものとみなされるため、原則として控除の対象外です。
ただし、その人が遺贈などにより財産を取得している場合には、取得した財産の価額から、実際に負担した葬式費用をその範囲で控除できます。


海外に住む相続人が支払った場合

実は次男が海外に住んでいて、クレジットカードで葬儀費用を払ってくれたんです。それは対象ですか?

相続税法上の“居住者”であれば控除できますが、完全な非居住者(制限納税義務者)の場合は控除できません。

非居住者(相続税法上の制限納税義務者)の場合、葬式費用は控除対象に含まれません。
これは、債務控除の範囲が「日本国内にある財産に係る特定の債務」に限定されており、葬式費用は列挙対象外だからです。
一方、日本に住所や居所を有する相続人(無制限納税義務者)であれば、通達13-4の範囲で控除が可能です。

簡単に言うと、“日本で課税される人だけが日本の葬式費用を引ける”ということです。


遺贈を受けた人が支払った場合

遺言で財産をもらう予定の親族が、葬儀費用の一部を出してくれました。これは差し引けますか?

ここはちょっとややこしんです。
誰に対する遺贈か”と“包括遺贈か特定遺贈か”で結論が決まります。

葬式費用を相続税で差し引ける人

  • 相続人
  • 包括遺贈を受けた人
  • 相続人に対する特定遺贈(家だけ・預金だけ等)を受けた人

差し引けない人

  • 相続人以外の第三者に対する特定遺贈を受けた人

相続税法13条1項は
「相続又は遺贈(包括遺贈及び 被相続人からの相続人に対する遺贈 に限る)」
と限定しています。つまり、“第三者への特定遺贈”だけが対象外です。

なるほど、遺言で家や預金だけを“相続人が”もらう場合は、葬儀代を出していれば控除できるんですね。

その通りです。反対に、相続人ではない第三者が特定の財産だけをもらうケースでは葬式費用を控除できません。

証憑(請求書・振込控え等)で「誰が・何に・いくら負担したか」を明確に。按分が必要なら根拠メモを添えておくとスムーズです。

節税のためのポイント

葬式費用は、漏れや誤判定があると税額に影響します。
お布施や心づけなど領収書が出ない支出は、支払先・日付・金額をメモしておくことが確実です。

お墓を生前に買っておくと節税になったんでしょうか?

お墓は“控除”ではなく“非課税財産”になる、ということです。
生前に購入しておけば、その分は相続財産に含まれず、結果的に相続税の負担を軽くできます。


まとめ

葬式費用として差し引けるかどうかは、

  1. 葬式の前後に発生した支出であること
  2. 一般常識的に葬儀に伴う出費であること
  3. 相続人(または包括受遺者)が負担したこと

この3つを満たすかどうかで判断します。

いろいろ細かいですね。どこまで入れていいのか迷いそうです。

そういうときは、領収書やメモを全部まとめて見せてください。税理士のほうで一つずつ確認して分類します。


葬式費用を正しく区分しておくことで、相続税の申告は無理なく進められます。
早い段階から領収書やメモを整理し、専門家と確認しながら落ち着いて進めていきましょう。


脚注(出典)


  1. 相続税法13条1項2号(2025/4/1現在)
  2. 相続税基本通達13-4(葬式費用)
  3. 同通達13-4(4)「遺体又は遺骨の運搬に要した費用」
  4. 相続税基本通達13-4(3)「通常葬式に伴うもの」
  5. タックスアンサーNo.4129「相続財産から控除できる葬式費用」(国税庁、2025/4/1)
  6. 相続税基本通達13-5(1)「香典返戻費用」
  7. 同通達13-5(3)「法会の費用」
  8. 同通達13-4(1)「埋葬・火葬・納骨に要した費用」
  9. 相続税法12条(祭祀財産の非課税)
  10. 相続税法13条1項前段「相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る)」
  11. 相続税基本通達13-3「その者の負担に属する部分」
  12. 相続税基本通達13-1「相続放棄者が負担した葬式費用」
  13. 相続税法13条2項(制限納税義務者に係る債務控除の制限)
  14. タックスアンサーNo.4126「相続財産から控除できる債務」(国税庁、2025/4/1)
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