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大学への遺贈寄附を考える② 寄附だけを見ていても、見えないことがある

大学への遺贈寄附を考える② 寄附だけを見ていても、見えないことがある
確定申告書の寄附金控除の欄には、いろいろな名前が並びます。
ふるさと納税。赤十字。ユニセフ。どれも珍しくありません。
でも、そこに大学の名前があると、少し目が止まります。なぜこの大学なのだろう、と。
今回は、相続税申告で目にする書類を通じて税理士に見えている「寄附の景色」について書きます。
寄附金控除欄に並ぶ名前の「色」
ふるさと納税は、実質的には税制上の優遇措置を活用した仕組みです。
返礼品を目的に寄附先を選ぶ方も多く、寄附者と寄附先の間に個人的なつながりがあるとは限りません。
赤十字やユニセフへの寄附は、人道支援への善意から行われることが多い。
大切な行為ですが、寄附者と寄附先の間に個人的な接点があることは少ないように思います。
大学への寄附は、そのどちらとも少し違います。
かつてそこで学んだという個人的な経験に根ざしていることが多い。寄附先に、寄附者自身の人生が映っています。
生前の大学への寄附は、所得税の寄附金控除の対象になります。
大学は特定公益増進法人に該当するため、所得控除の適用があります。
大学によっては税額控除を選ぶこともできます。
ただし、寄附の「意図」は申告書には記録されません。税務書類に残るのは「○○大学 △万円 寄附金控除」という事実だけです。
日本の大学への寄附は、法人からの寄附が大半を占めており、個人からの寄附はまだ一般的とは言えません。
米国では卒業生の寄附文化が広く定着していますが、日米の違いは「意識の差」ではなく、制度と歴史の違いです。
国立大学が長く国家予算で運営されてきた日本と、税制上の優遇措置のもとで大学が寄附者との関係を構築してきた米国とでは、背景が異なります。
税理士として見てきた現場
初めての相続税申告の案件でした。
川崎市にお住まいだったお客様の相続です。
戸籍謄本や略歴書を集め、過去の確定申告書を確認していく中で、寄附金控除の欄に四国のとある私立大学の名前がありました。
戸籍謄本から四国のご出身と分かっていたので、「あ、この方はご自身の出身地の大学に思いがあったんだな」と感じました。
ごく普通に暮らしてこられた方の人生を、いろいろな書類から辿っていく。
戸籍謄本をめくり、略歴書を読み、確定申告書を一年分ずつ開いていく。
初めての相続税申告で、相続専門税理士という仕事の面白みに触れた瞬間でした。
戸籍謄本や略歴書には出身地の情報はあります。
でもそれは事務的な情報であって、その方がどんな思いで大学に寄附していたかまでは分かりません。
寄附金控除欄に出身地の大学名があると、書類上の事実の隙間から、ご本人の気持ちの痕跡のようなものが少しだけ見える。
毎年の所得税の確定申告でも、大学への寄附を目にすることはあります。ただ、何十件もの申告を扱う中では、情報として流れていくことが多い。
相続税の申告は違います。一人の方の人生をまるごと受け止める作業です。
だからこそ、そこで確認した過去の確定申告書の寄附金控除欄が、記憶に鮮やかに残っているのだと思います。
ただし、寄附先にその人の人生が映るのは、大学に限った話ではありません。
病院への寄附は、ご本人やご家族がお世話になったからかもしれない。
対がん協会への寄附は、身近な方が闘病された経験があるのかもしれない。
私にとって大学への寄附が印象に残っているのは、初めての相続税申告の業務で確認した確定申告書に、たまたま大学への寄附があったからです。
大学への寄附が特別なのではなく、自分の体験の記憶に結びついている。
このシリーズが大学に絞っているのも、そういう個人的な理由によるものです。
税理士は、書類を通じて故人の寄附の履歴を知ります。「この方はこの大学に思いがあったんだな」と思うこともあります。
でも、それだけです。そこから遺族に「大学への寄附を続けませんか」とは言いません。
税理士の仕事は相続税の申告であって、寄附の営業ではないからです。
ただ、相続税の申告を進めていると、こういう場面に出会うことがあります。
「父が大学に寄附していたみたいなんですが……」
相続人が、故人の寄附の存在を知らなかったケースです。
遺言があれば、故人の意思はある程度分かります。
でも遺言がなければ、寄附の履歴だけが残り、なぜ寄附していたのかは確認のしようがない。
故人の意思が言葉として残されていなければ、それをどう受け止めるかは相続人に委ねられることになります。
全体を見るということ
相続税の申告を完結させるには、財産の種類や名義、過去の収支、家族の関係を把握しなければなりません。
税理士が財産の全体を見る立場にいるのは、意図ではなく、業務の構造上の必然です。
寄附を考えるなら、寄附だけを切り出して相談するのではなく、人生と財産の全体を整理する中で考えたほうがいい。前回書いた立場の延長ですが、今回それを、具体的な書類と体験を通じてお伝えしたかったのです。
寄附の背景には必ず人生の物語があります。
書類の向こうにある人生を一緒に整理することが、私の仕事の一つです。
次回は、その整理に必要な税務の基本構造──遺贈と相続税の関係について見ていきます。
