大学への遺贈寄附を考える①なぜ税理士が大学への遺贈寄附について書くのか

昨年、出身大学のホームカミングデイに足を運んだとき、受付で配られたパンフレットをめくっていると、1ページだけ、遺贈寄附の案内が載っていました。
大学の基金事務局が出しているものです。

「未来への想いを○○大学に託すという選択」──そう書かれたページには、遺贈の魅力がいくつか紹介されていて、その一つに「あなたのお名前が後世に」とありました。
寄附をすれば、大学の象徴的な建物に芳名が刻まれるようです。

卒業生として、こうした取り組みがあること自体は自然だと思いました。
ただ、税理士として読んでいると、どうしても別のことが気になってきます。

遺贈で財産を遺すとき、税務上は何が起きるのか。

相続人がいる場合、寄附はどこまで実現できるのか。
不動産や有価証券を寄附したいと思ったとき、現金化の過程で何が起きるのか。

パンフレットにはそうしたことは書かれていません。それは当然です。
大学は寄附を受け入れる側であり、寄附者の財産全体を整理する立場にはないからです。

では、誰がそこを見るのか。私は税理士として、そのことが気になりました。

目次

大学への寄附という選択肢

近年、遺贈寄附の寄附先として大学が注目されつつあります。

私が確定申告書で見てきた大学への寄附は、いずれも寄附者自身の出身校へのものでした。
NPOや福祉団体への寄附が社会課題への共感から始まることが多いのに対し、大学への寄附は、かつてそこで学んだという個人的な経験に根ざしていることが多い。
その点が、大学への遺贈寄附の特徴かもしれません。

だからこそ、寄附者の意思をどう形にし、どう届けるかが重要になります。
そして、その過程では税務や相続の知識が欠かせない場面が出てきます。

税理士として見てきた現場

私は相続税を専門とする税理士です。
日々の業務の中で、大学への寄附に関わる場面は、実はそれほど珍しくありません。

たとえば、確定申告の時期に行われる税務支援。
相談者の申告書を確認していると、寄附金控除の欄に大学名が記載されていることがあります。
毎年、同じ大学に寄附を続けている方もいます。

相続税の申告でも、同じような場面に出会います。
故人の過去数年分の確定申告書を確認する中で、大学への寄附が毎年記録されていることがある。
金額は大きくないことが多い。でも、途切れることなく続いている。

こうした寄附は、誰かに頼まれたものではなく、ご本人の意思で静かに続けられていたものです。
税理士はそれを、財産全体を整理する過程で知ることになります。

ただし、正直に申し上げると、遺贈寄附そのものを相続の現場で扱った経験は、まだありません。
遺贈寄附は注目されつつあるとはいえ、相続の実務ではまだ一般的とは言えないのが実情です。

それでも──というより、だからこそ、制度と現場の両面から整理しておきたいと考えました。

このとき、税理士が考えるのは「この方は寄附が好きだったんだな」ということではありません。
相続税の申告にあたって、この寄附の履歴が何を意味するか、遺言に寄附の記載があるか、相続人はこのことを知っているか──そうした実務上の確認です。

寄附は、善意や想いの問題であると同時に、財産の移転という事実でもあります。
税理士はその両方を見る立場にいます。

このシリーズで書くこと

遺贈寄附の寄附先は大学だけではありません。NPO、福祉団体、自治体など選択肢は多い。
ただ、実際に遺贈寄附をサポートしようと考えたとき、寄附先を絞らないと制度も実務もあまりに広範で、整理しきれないことが分かりました。

このシリーズが大学に絞っているのは、私自身の接点がそこにあるからです。
出身校のパンフレットで遺贈寄附を知り、確定申告書で見てきた寄附も納税者の出身校へのものでした。
自分の経験と実務の範囲で、具体的に書けるテーマとして大学への遺贈寄附を選んでいます。

そのうえで、このシリーズは大学への遺贈寄附を勧めるものではありません。
寄附を否定するものでもありません。

人生をどう仕舞うかを考える中で、大学への寄附という選択肢がどういう意味を持ちうるかを、税理士の立場から整理してみたいと思います。

寄附したいという気持ちがある方にとっては、その気持ちを実現するために何を整理しておくべきかを確認する機会になるかもしれません。
寄附するかどうかまだ決めていない方にとっては、判断の材料になるかもしれません。

そして、寄附しないという結論になっても、それはそれでいいと思っています。

大切なのは、寄附ありきで考えることではなく、財産や家族の状況を含めた全体を整理したうえで、選択肢の一つとして寄附を考えることです。

全5回のシリーズとして

税理士は、財産の種類や名義、収支の流れを踏まえて、相続を全体として整理する専門家です。
その立場から、大学への遺贈寄附についても考えてみます。

第1回(本稿) なぜ税理士が大学への遺贈寄附について書くのか

第2回 寄附だけを見ていても、見えないことがある

第3回 遺贈寄附と相続税──制度の基本構造

第4回 現場で起きるズレと摩擦

第5回 誰に相談するか、という問題

寄附という行為を、制度と現場の両面から整理していきます。

次回は、相続税の申告業務の中で税理士が見ている「寄附の景色」について書きます。

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