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配当の確定申告する/しない?課税所得695万円の判断基準を税理士が解説

上場株式等の配当を受け取ったとき、 確定申告する?しない?
この判断の目安となるのが 「課税総所得金額695万円」という数字です。
配当に関わる税制は複雑です。配当控除、総合課税、申告分離課税、申告不要。
さらに住民税や健康保険料まで考え始めると、
「結局どう判断すればいいのか分からない」と感じる方も多いと思います。
そこでこの記事では、
迷宮に入りやすい論点をいったん整理するための「入口」として、
課税総所得金額 695万円
という数字を軸に、
上場株式等の配当と確定申告の考え方を整理します。
この記事の射程について
この記事は、上場株式等の配当について
税金(所得税・住民税)に限って
確定申告を考える際の「考え方の入口」を整理するものです。
制度のすべてを網羅したり、
個別の最適解を断定することは目的としていません。
なお、分かりやすさを優先するため、
以下では復興特別所得税については省略しています。
※本記事は、令和6年分(2024年分)時点の税制に基づいて記載しています。
「上場株式等」とは、
証券取引所に上場している株式のほか、ETF・REITなど、
所得税法上「上場株式等」に区分される有価証券を指します。
本記事では、
一般的な日本株の配当を想定して説明します。
この記事で扱う確定申告の前提
まず、大切な前提を整理します。
本記事で扱っているのは、
- 上場株式等の配当を
- 特定口座(源泉徴収あり)で受け取っており
- 他に確定申告義務がない方
を想定したケースです。
この場合の確定申告は、
納税のための「義務」ではなく、
税金を取り戻すための
「還付請求という権利」を行使するかどうか
という位置づけになります。
📝 上場株式等の配当の課税方法
上場株式等の配当については、
原則として次の課税方法から選択します。
- 申告不要(源泉徴収のまま)
- 総合課税(配当控除の適用あり)
- 申告分離課税
本記事では、
特定口座(源泉徴収あり)で受け取った配当について、
「①申告不要のままにするか」「②総合課税で申告するか」
という場面に話を絞って整理しています。
令和5年分以降、
所得税と住民税で
異なる課税方式を選ぶことはできません。
- 所得税で総合課税を選択すると、住民税も総合課税
- 申告不要を選択すると、住民税も申告不要
以前は可能だった
「住民税だけ申告不要にする」
といった選択は、
現在はできなくなっています。
申告分離課税について
③申告分離課税は、
株式の譲渡損失がある場合に、
配当や譲渡益と損益通算を行うために
選択されることがあります。
たとえば、
株式を売却して損失が出ている年に、
配当とあわせて申告することで、
税負担が軽減されるケースです。
本記事では、
配当単体での判断を整理することを目的としているため、
株式の譲渡損失との損益通算を前提とした検討は行っていません。
源泉徴収税率 20.315%の内訳(実務上の整理)
特定口座(源泉徴収あり)で配当を受け取ると、
次の税率で源泉徴収されます。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
合計:20%(実際には復興所得税を含めて20.315%)
※本記事では、
判断をシンプルにするため、
以下の説明では 20%を基準 に考えます。
結論を先に:695万円は「実務上の目安」
税金(所得税・住民税)だけを見ると、
課税総所得金額695万円は、
配当所得に総合課税を選択して確定申告すべきか否かを判断するうえで、
実務上まず確認したい
「目安となるライン」と整理できます。
ただし、
「695万円以下なら必ず有利、
超えたら必ず不利」
という意味ではなく、
「695万円以下なら有利になりやすく、
超えると不利になりやすい」
ことから、判断の出発点となる目安となります。

課税総所得695万円って、多くの人はそれ以下ですよね。それなら、確定申告した方が得なんですか?



いえ、配当に関わる制度は複雑なので、これだけでは正しく判断できません。確定申告を“検討し始めるための目安”と考えてください。
課税総所得金額とは?(年収ではありません)
ここで使っている
課税総所得金額695万円は、
年収の話ではありません。
課税総所得金額とは、
収入から必要な控除を差し引いたあと、
実際に所得税の税率をかける対象となる金額
をいいます。
計算の流れは次のとおりです。
収入(給与・配当など)
↓
所得金額
(給与なら「給与収入 − 給与所得控除」)
↓
各種所得控除
(基礎控除・社会保険料控除など)
↓
課税総所得金額
多くの方にとって、
課税総所得金額は
年収よりもかなり小さくなります。
📎 参考 課税総所得金額695万円は年収でいうとどのくらい?
あくまで目安ですが、
次のようなイメージになります。
- 給与収入のみ・独身の場合
年収おおよそ 900万〜950万円前後 - 給与収入のみ・配偶者控除がある場合
年収おおよそ 950万〜1,000万円前後
実際の金額は、
社会保険料や扶養状況、
各種控除の内容によって
大きく変わります。
なぜ695万円なのか(所得税率の切り替わり)
課税総所得金額695万円が一つの目安になる理由は、
所得税率が切り替わる境目だからです。
所得税の速算表(抜粋)
- 課税総所得金額
330万円超 695万円以下:20%
695万円超 900万円以下:23%
695万円を超えると、
所得税率が 20% → 23% に上がります。
この税率差と、
配当控除(所得税10%、住民税2.8%)との関係が、
考え始める際の起点になります。
配当控除とは何か(本来の目的)
配当控除は、
会社段階と個人段階で生じる
二重課税を調整するための制度です。
企業の利益は、
まず法人税として会社の段階で課税され、
その後、配当として株主に分配される際にも、
個人の所得として課税されます。
このように、
同じ利益が二度課税される構造をそのままにしてしまうと、
配当という形で利益を受け取ること自体が
過度に不利になってしまいます。
そこで、日本の税制では、
日本法人からの配当について
総合課税を選択した場合に限り、
一定割合(所得税10%、住民税2.8%)を税額から直接差し引く
「配当控除」という仕組みを設けています。
所得税が累進課税である一方、
配当控除は定率であるため、
結果として
所得税率が低い層ほど節税効果が出やすい
という構造になっています。
税金の計算例(概算・税金のみ)
ここでは、
課税総所得金額が695万円を下回るケースでは、
税金の面でどの程度の差が出るのかを、
ごく単純な前提で確認してみます。
細かな控除や個別事情は考慮せず、
あくまで考え方をつかむための概算です。
【前提】
- 上場株式等の配当:10万円
- 課税総所得金額:600万円
- 日本株
【申告不要(源泉徴収のまま)】
源泉徴収税率を 約20%(所得税15%、住民税5%) として考えます。
- 税金:約20,000円
- 手取り:約80,000円
【総合課税+配当控除】
このケースでは、
- 所得税:20% − 配当控除10% → 実効10%
- 住民税:10% − 配当控除2.8% → 実効7.2%
となり、
合計実効税率は約17.2% です。
- 税金:約17,200円
- 手取り:約82,800円
【差額のイメージ】
源泉徴収税率(約20%)と比べると、
税率差は 約2.8%。
配当10万円の場合、
税金だけを見ると約2,800円程度の差
が生じる計算になります。
※あくまで概算・目安です。
「695万円」以下でも“やらない方がいい人”
課税総所得金額が695万円以下でも、
次のような場合は、
わざわざ総合課税で申告しないでもよい可能性があります。
- 国民健康保険・介護保険に加入している → 保険料が増えることがある
- 扶養・各種判定ライン付近 → 控除や軽減措置が外れるリスク
- 住民税非課税世帯(またはその判定ライン付近)→ 総合課税にすると、住民税の非課税判定が崩れることがある
- 住宅ローン控除・寄附金控除を使い切っている → 税額控除を差し引く余地がない
- 配当を入れると695万円ギリギリ → 税率上昇で逆転する可能性
- 配当が少額(目安:年5万円以下)→ 還付額が小さく、手間に見合わない
「申告を検討する価値がある人」の例
一方で、
次のような場合は、
総合課税での申告を
検討する価値があります。
- 課税総所得金額がおおむね500万円以下
- 配当が年間10万円以上ある
- 会社員などで社会保険に加入している
- 税額控除を使い切っていない
まとめ:「695万円」は「答え」ではなく「入口」
課税総所得金額695万円は、
確定申告を検討する際の、
非常に分かりやすい出発点です。
ただし、
それは結論ではありません。
課税総所得695万円は、
「配当所得を申告した方が得か損か」を即断する数字ではなく、
考え始めるための入口にすぎません。
695万円という目安があっても、
家族構成や社会保険料、住民税の非課税判定、
医療費控除などの影響によって、
最適な選択は人によって変わります。
それでも、あえてこの数字を取り上げたのは、
配当を確定申告すべきか否かはあまりに論点の多いため、
最初からすべてを考慮しようとすると、
かえって何も判断できなくなって
「よく分からないから申告しない」という選択に
流れてしまいがちだからです。
695万円という一つの目安を置くことで、
まずは自分の立ち位置を確認し、
確定申告を検討すべきかどうかを考える。
そのための入口として、
この数字は十分に役割を果たすと考えています。
最後に(重要な注意点)
なお、ここまで見てきた695万円の考え方は、
あくまで
税金(所得税・住民税)だけ
を基準にした整理です。
実際の損得判断では、
国民健康保険料・介護保険料、
各種控除や判定への影響など、
税金以外の要素も
結果に影響します。
実際上は、
- 課税総所得金額を確認する
- 税金の還付見込みを概算する
- 国民健康保険料や扶養判定など、税金以外の制度に影響が及ばないかを確認する
という順番で整理すると、
判断しやすくなります。



ちなみに、NISA口座内で受け取る配当については、
所得税・住民税ともに非課税なので、確定申告は不要です。
確定申告をするかどうかで迷う必要ありませんよ。
