税務署に相談すれば安心?相続税申告で注意すべきこと

相続税の申告で分からないことがあれば、税務署で無料相談が受けられます。
「税務署で教えてくれるなら、税理士に頼む必要はないのでは?」と考える方も少なくありません。

確かに、税務署は制度の仕組みを丁寧に説明してくれます。
しかし、税務署の立場は「税金を正しく徴収する側」。
納税者の利益を最大化する立場ではなく、また最終的な責任を負うのはあくまで申告者本人です。

税務署に相談すれば大丈夫だと思っていました。

“税務署に聞いたんだから間違いないだろう”と考える方は多いのですが、その答えがあなたの事情に合っているとは限りません。


目次

税務署相談の役割と限界

税務署の相談窓口は、制度の一般的な仕組みを説明してくれる場所です。
法令に基づく「原則的な取り扱い」を教えてくれる一方で、
「どちらを選ぶと有利か」「将来の相続を見越してどう備えるか」といった判断まではしてくれません。

節税の方法は教えてもらえますか?

残念ながら、税務署は“節税の指南”はできないんです。職務の範囲を超えるからですね


ケース:土地評価を誤って高く申告した例

市街地にある不整形な土地を相続した人がいました。
税務署の窓口では「路線価をもとに計算してください」と言われ、
そのまま路線価×地積で単純に評価額を算出して申告しました。

ところが実際には、土地の形状や奥行、接道条件などから減価要因があり、
専門家が評価すれば30%ほど低く算定できたケースでした。

結果として、本来より1,000万円以上高い評価で申告し、数百万円の相続税を余計に支払ってしまったのです。

路線価どおりに計算すればいいと思っていました

路線価はあくまで“出発点”です。

不整形地や奥行が極端に深い土地などでは、そのまま評価すると実勢より高い価格になります。形状や利用制限などを補正しないと、本来認められる評価減を見落とし、結果的に税金を払いすぎることになりかねません。


ケース:「税務署に聞いたから大丈夫」と思ったら調査で否認

生前に親の預金を兄弟で引き出して使っていた家庭がありました。
税務署で「生活費なら贈与には当たりません」と説明を受けたため、そのまま申告を行いました。

ところが後の調査で、引き出した一部が子どもの貯蓄に回っていたことが判明。
調査官は「生活費の範囲を超えている」と判断し、贈与と認定。
過少申告加算税と延滞税を含め、数十万円の追徴を受けました。

税務署で“問題ない”と言われたのに…

税務署は“聞いた範囲の情報”で答えます。
相談の際に伝えていない事情があれば、その前提での判断はできません。

何を伝えるべきかを判断するのは、一般の方には簡単ではありません。
「これも関係あるかも?」と思うような内容――たとえば、お金の出入りの経緯や、土地の実際の使い方、家族の生活状況なども含めて、できるだけ具体的に話すことが大切です。情報を省くと、税務署は一般論しか答えられず、結果として誤った判断をしてしまうこともあります。


ケース:「税務署で聞いたのに…」調査で覆された例

相続から3年後、税務署の調査が入りました。
調査官が書類を広げながら言います。
「この特例の適用、要件を満たしていませんね」

申告者は驚きました。
「えっ?申告前に税務署で“問題ない”と聞きましたよ」

しかし調査官の答えは静かでした。
「そのときの回答は一般論です。実際の申告内容は、個別に判断します。」

――税務署の説明は、一般的な助言であり、法的な保証ではありません。
税務署の職員は、制度上「課税庁の立場」にあります。そのため、説明の内容に誤りがあったとしても、責任を取ってもらうことはできません
たとえ税務署の説明どおりに申告しても、後の税務調査で「課税が必要」と判断されれば、修正申告や追徴課税が求められる場合があります。税務署の助言はあくまで「一般的な情報提供」であり、最終的な判断と責任は納税者自身にある――この点を忘れないことが大切です。


補足:税務署の中でも「相談」と「調査」は別の仕事

税務署といっても、ひとつの意見で動いているわけではありません。
窓口で対応する職員と、申告内容を審査・調査する職員は、まったく別の部署に所属しています。

窓口職員の役割は、制度の一般的な説明を行うこと。
一方で、調査官は実際の申告内容に課税を適用するかどうかを判断する立場です。

つまり、同じ庁舎の中でも——
前者は「法令の原則を説明する係」、
後者は「その原則をどう運用するかを判断する係」。

立場が違えば、見解が食い違うこともあります。
「同じ税務署なのに、答えが違う」というのは、けっして珍しいことではないのです。


「税務署が言った」は免責にならない

税務署で聞いた内容が間違っていても、申告者は責任を免れません。
相続税法第27条により、申告義務と責任は納税者本人にあります。
国税不服審判所でも一貫してこう判断されています。

「税務署職員の口頭説明は法的拘束力を有せず、納税者の免責事由とはならない」
(国税不服審判所裁決 平成30年8月29日)

つまり、「聞いたけど違っていた」も「知らなかった」も、
どちらも自分の責任の範囲なのです。


税務署での相談内容は記録に残らない

税務署の相談窓口はとても親切な制度ですが、原則として公式な記録は残りません。
職員がその場でメモを取ることはあっても、それは内部用の参考メモに過ぎず、
納税者の氏名・質問内容・回答が「税務記録」として保存される仕組みはないのです。

そのため、後から「税務署でこう言われた」と主張しても、
税務署側には確認する手段がありません。
調査や審査の場で「その説明を信じて申告した」と言っても、
証拠として扱われることはほとんどないのが実情です。

もちろん、相談者自身が担当者名や回答内容をメモしておくのは大切です。
ただし、それはあくまで個人的な記録であり、
法的な証明力は限られます。言った・言わないの争いになれば、
納税者のメモだけでは十分な根拠にならないことが多いのです。

こうした不安を避けたい場合には、「文書回答制度」という方法があります。
これは、税務署に質問を文書で提出し、書面で公式な回答をもらう制度です。
ただし、すべての相談が対象になるわけではなく、
一定の条件(取引の具体性や税額への影響が明確であることなど)を満たす必要があります。


税務署相談を有効に使うための3つのコツ

税務署相談は制度理解の入口として大変有用です。
税務署相談を安心して活かすには、次の3点を意識しましょう。

① 相談内容を自分で記録する
 日付・担当者名・回答の要旨をメモしておく。後で見返すときに役立ちます。

説明の“範囲”を確かめる
 税務署の説明は、基本的に「法律や通達にこう書かれています」という原則の案内です。
 それが“あなたの事情にもそのまま当てはまるのか”までは判断されません。

 説明を受けたときは、「これは一般的な話ですか? それとも私のケースにも当てはまりますか?」と尋ねてみましょう。どこまでが一般論で、どこからが個別判断なのかを整理できます。

専門家の申告内容を自分で理解する
 税務署で聞いた内容は、“自分で申告書を作る”ためではなく、
 税理士が作成した申告内容を理解し、納得して提出するための知識として活かしましょう。

税務署相談で制度の仕組みを理解しておけば、税理士に相続税申告を依頼した後も、税理士の説明をただ聞き流すのではなく、「なぜそうなるのか」を自分で確認しながら進められます。

税務署相談は、税理士に代理で作成してもらう相続税申告書について、基本的な部分は自分でも理解するための学びの場として使うのが賢い方法です。

補足:“相談だけで自分で申告”は危険なワケ

税務署相談にせよ、税理士への相談にせよ、それだけを頼りに、
自分だけで申告まで進めてしまうのはリスクが大きいです。

先ほど述べたとおり、税務署の説明は一般論であり、実際の事実関係にあてはめた結果とは限りません。

税理士相談についても、税理士に「自分で作った申告書を見てほしい」と相談しても、
対応してもらえないことがあります。(ちなみに弊所も対応していません。)

税理士は、助言した内容に専門家としての責任を負うため、
部分的な情報だけで判断するのは危険だからです。
正確なアドバイスを受けるには、事情を全体的に共有することが大切で、そうなると相談だけでは難しいのです。

税務署相談の次の一歩──税理士とつくる“安心の申告”

税務署相談を受けたあと、
「自分で申告書を作ってみよう」と考える人も少なくありません。
けれど、税務署の説明はあくまで一般的な助言にとどまり、
そのまま自分のケースに当てはめるのは慎重さが必要です。

一方で、税務署相談で基礎を理解した次の一歩として、税理士に申告書の作成を依頼した場合、
相続税申告書の末尾には「税理士署名押印欄」が設けられています。
これは単なる形式ではなく、

「この申告内容を法令に照らして正しいと確認しました」
という専門家としての責任の証明です。

つまり――

税務署の口頭説明は助言。
税理士の署名は責任。

この違いが、申告後の安心を大きく左右します。

税理士の署名って、そんな意味があるんですね

申告書は、あなたの代わりに国へ出す“正式な申告のことば”です。
だからこそ、私たちはそれが正しく伝わるように、責任をもって仕上げているんです。


まとめ:税務署相談で学び、税理士への申告依頼で守る

税税務署の相談窓口は、相続税制度を理解するうえでの心強い入口です。
制度の基本を学ぶ場としては大変有用ですが、
その回答はあくまで一般的な説明にとどまり、
個々の事情に踏み込んだ判断や、最終的な責任までは引き受けてくれません。

一方で、相続税申告は財産の評価・法令の解釈・証拠書類の整備など、
専門的な判断の積み重ねで成り立っています。
これらをすべて自分で行うのは現実的ではありません。
そのため、税理士に申告書の作成を委ねることが最も確実で安心な方法です。

ただし、「任せる」ことと「丸投げする」ことは違います。
税務署相談で制度の仕組みを理解しておけば、
税理士の説明がより明確に分かり、自分の申告内容を納得して提出できます。
理解して委ねる。
その姿勢こそが、誤りのない、後悔のない相続税申告につながります。

税務署の説明は航海の先を照らす灯台の光。
けれど、実際に舵を取り、安全に港へ導くのは税理士という航海士です。

相続税申告は、税理士に任せるだけでなく、自分でも基本を理解しておく。その最初の学びの場として税務署への相談は役に立ちます。



主要法令・資料(令和7年4月1日現在)

  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第22条・第27条
  • 租税特別措置法第69条の4(小規模宅地等の特例)
  • 国税通則法 第23条・第24条・第65条
  • タックスアンサー No.4124・No.4402・No.4606(国税庁、令和6~7年4月1日現在)
  • 国税不服審判所裁決(平成30年8月29日)
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