面談予約専用ダイヤル044-712-0945
(電話受付:平日午前9時~午後6時)
確定申告期だからこそ確認したい——ふるさと納税に懐疑的だった税理士が自分で試してみた

正直に言うと、私はこれまでふるさと納税を積極的に使ってきませんでした。
家族がこの制度に対して否定的だったことが大きいです。
以前返礼品が届いたとき、「自分の住んでいる自治体に納税しないで、返礼品をもらって喜んでいるなんて浅はかだ」と言われてしまいました。
そんな空気もあり、私自身もなんとなく距離を置いていました。
ただ、税理士としてお客様からふるさと納税の相談を受ける機会はあります。
制度を理解するには、やはり自分で使ってみないとわからない。
そう思い立って、昨年分のふるさと納税は限度額ギリギリを攻めてみることにしました。
結果的に自己負担2,000円で収めることができたのですが、そこに至るまでの計算は税理士である私でもかなり骨が折れました。
所得の見込みを立て、各種の控除を正確に把握する。ここがきちんと固まらないと限度額も定まりません。
だからこそ、一般の方が戸惑うのも無理はないと身をもって実感しました。
そこで今回は、この経験も踏まえて、確定申告期に確認しておきたい「ふるさと納税の落とし穴」をまとめてみます。「そんなつもりじゃなかった」「損しちゃった」とならないよう、ぜひチェックしてみてください。
ワンストップ特例まわりの落とし穴
まず前提として、ワンストップ特例を使える人・使えない人を整理しておきます。
ワンストップ特例は、確定申告をしなくてよい給与所得者や年金所得者のための簡便な制度です。
寄附のたびに自治体に申請書を送るだけで、確定申告なしで住民税から控除を受けられます。
まず、自分がどちらの手続きになるのかを確認しておきましょう。
給与所得者・年金所得者
確定申告をする予定がある方
自治体へ申請書を提出
寄附金控除を記載
自動的に無効になる
(XMLデータでも可)
ただし、以下に当てはまる方はワンストップ特例を使えません。確定申告で寄附金控除を申告する必要があります。
- もともと確定申告が必要な方(自営業・フリーランス、不動産所得がある方、2か所以上から給与を受けている方など)
- その年に確定申告をする予定がある方(医療費控除、住宅ローン控除の初年度、雑損控除など)
- 寄附先が6自治体以上の方
- 給与収入が2,000万円を超える方
逆に言えば、会社の年末調整だけで税金の手続きが完結する方で、寄附先が5自治体以内であれば、ワンストップ特例が使えます。
この前提を踏まえたうえで、よくある落とし穴を見ていきましょう。

ふるさと納税はワンストップの申請書を出したので、確定申告はしなくて大丈夫ですよね?



ちょっと待ってください。今年、医療費が結構かかったとおっしゃっていませんでしたか?
医療費控除を受けるなら確定申告が必要なので、ワンストップは使えなくなりますよ。



えっ、そうなんですか? じゃあ確定申告のときにふるさと納税の分も一緒に申告すればいいんですか?



そうです。確定申告をすればワンストップは自動的に無効になります。
確定申告書にふるさと納税の寄附金控除を記載し忘れると、控除がまるごと抜け落ちてしまいます。そこだけは気をつけてくださいね
こういったやりとりは、確定申告の時期に実際によくあります。
ポイントは、ワンストップ特例の申請書を出していても確定申告をすれば問題ないということ。ただし、確定申告書にふるさと納税の寄附金控除を記載し忘れると控除がまるごと抜け落ちる——ここが一番の落とし穴です。
確定申告が必要なのに、ワンストップだけで済ませてしまった
ワンストップ特例は、確定申告をしない給与所得者向けの制度です。たとえば、医療費控除を受けたい方や、住宅ローン控除の初年度の方は確定申告が必要になりますので、ワンストップ特例は使えません。
「ふるさと納税はワンストップで済ませたけど、医療費控除だけ確定申告しよう」というケースでは、ワンストップが無効になることを忘れがちです。
寄附先が6自治体以上でワンストップが使えない
ワンストップ特例を使えるのは、寄附先が5自治体以内の場合に限られます。
6自治体以上に寄附した場合は、確定申告で寄附金控除を申告する必要があります。
色々な返礼品を楽しみたくて自治体を増やしていたら、いつの間にか6つ以上になっていた、ということは意外とあります。
ワンストップ特例まわりで大事なのは、「自分は確定申告が必要かどうか」をまず確認することです。
控除上限額まわりの落とし穴



ふるさと納税のシミュレーションサイトで上限額を調べて、ギリギリまで寄附したんですけど、大丈夫ですよね?



そのシミュレーション、いつの時点の収入で計算しましたか?



えーっと、10月くらいの給与明細をもとに……



その後、ボーナスが予定より少なかったとか、年末に大きな医療費が出たとか、ありませんでしたか?
上限額は最終的な所得で決まるので、途中の見込みとズレることがありますよ。



……ボーナス、少し減りました。まずいですかね?
ここが今回、私自身が一番苦労したところです。
ふるさと納税の「控除上限額」は、その年の所得や各種控除の状況によって決まります。
よく「年収○○万円なら上限は△万円」といった早見表を見かけますが、あれはあくまで目安です。
実際には、扶養控除や社会保険料控除、iDeCoの掛金、住宅ローン控除の有無などによって上限額は大きく変わります。
私は税理士として日頃から税額計算をしていますが、それでも自分の限度額をピタリと出すのはなかなか大変でした。上限額は「今年分の住民税所得割額」を基準に翌年の控除額が決まるため、今年の所得が確定しないと正確な上限額もわからない、という構造になっています。年末、いや年明けにならないと確定しない数字もあり、何度も計算をやり直しました。
上限額を超えて寄附していた
上限額を超えた分は、純粋な自己負担になります。
「お得だから」とたくさん寄附したつもりが、超えた部分は税金から戻ってこない持ち出しになってしまうわけです。
特に自営業の方は要注意です。
給与所得者であれば年収の見込みは比較的立てやすいですが、自営業の場合、決算の数字は確定申告の直前まで動き続けます。
私自身も今回実感しましたが、年が明けてから仕訳の誤りに気づいたり、取引先からの請求書が届いて未払金が追加になったりと、年末の時点で「確定」だと思っていた所得が後からずれることは珍しくありません。
所得が変われば、当然ふるさと納税の上限額も変わります。年末に駆け込みで寄附する場合は、決算が固まりきっていないリスクも頭に入れておく必要があります。
さらに令和7年分(2025年分)は、基礎控除額の引き上げをめぐる税制改正の議論が活発だったこともあり、シミュレーションが例年以上に複雑でした。



基礎控除が上がったら、ふるさと納税の限度額も下がりますか?



所得税の基礎控除額は上がりましたが、住民税は据え置きなんです。
限度額は主に住民税から計算されるので、思ったほど変わらない方もいます。ただ、正確には両方を見ないとわからないので、去年の感覚でそのままいくのは危ないですね
基礎控除額の引き上げ幅が所得税と住民税でどう異なるか、それがふるさと納税の上限額にどう影響するか
——こうした点は、改正の内容が固まるタイミングによっては年内のシミュレーションに反映しきれないことがあります。
実際、私が年末に計算していた時点では税務ソフトが改正内容に対応しておらず、前提となる数字自体がずれてしまう場面がありました。
制度の過渡期には、こうした不確実性も上限額の計算を難しくする要因になります。
年末の駆け込み寄附後に、所得が想定より下がった
年末にまとめて寄附する方は多いですが、最終的な所得が見込みより少なかった場合、上限額も下がります。
ボーナスが減った、副業の収入が思ったほどなかった、といった事情で上限を超えてしまうケースがあります。
住宅ローン控除との併用で、控除しきれない
住宅ローン控除は所得税から大きく控除されるため、ふるさと納税の寄附金控除と合わせると、所得税から引ききれないことがあります。
住民税でも控除できる額には上限がありますので、結果的にふるさと納税の恩恵が目減りしてしまう場合があります。
シミュレーションサイトだけでは安心できない理由
ふるさと納税のポータルサイトには便利なシミュレーション機能がありますが、入力項目が簡易的なものも多く、すべての控除を正確に反映できるわけではありません。
特に、複数の収入がある方や控除項目が多い方は、シミュレーション結果を鵜呑みにしない方が安全です。
今回、私は限度額の算定にAIを活用してみました。



シミュレーションサイトで計算したんですけど、自営業だと入力欄が合わなくて……



わかります。実は私も今回、AIに自分の所得や控除の状況を伝えて、対話しながら限度額の計算を詰めてみたんです。
自分の所得や控除の状況を入力して対話的にやりとりしながら計算を詰めていけるので、シミュレーションサイトの画一的な入力欄では拾いきれない条件も反映できます。
特に給与所得者以外の方——自営業やフリーランス、複数の所得がある方にとっては、シミュレーションサイトよりも柔軟で使いやすいと感じました。
もちろん、AIの回答をそのまま鵜呑みにするのは禁物です。税制の細かいルールを誤って解釈する可能性もあります。
不安がある方は早めに確認しておくことをおすすめします。確定申告の一般的なご相談は、国税庁の「確定申告電話相談センター」や、お住まいの地域の税務署でも受け付けています。
上限額ギリギリを狙うのはリスクが高い、というのが今回の実感です。
自分のケースに合った条件で個別にシミュレーションうえで、余裕を持った金額にとどめることをおすすめします。
手続き・名義まわりの落とし穴
寄附金受領証明書を紛失してしまった
確定申告で寄附金控除を受けるには、証明書類が必要です。
紛失してしまった場合、自治体に再発行を依頼できることもありますが、時間がかかることがあります。
最近は、ふるさと納税サイトが発行する「寄附金控除に関する証明書」(XMLデータ)をe-Taxで利用できるようになっています。
紙の受領証明書をなくしてしまった方は、こちらの方法も確認してみてください。
寄附者名義と決済名義が違う
ふるさと納税では、寄附者本人名義のクレジットカードで決済するのが原則です。
たとえば、夫の所得から控除を受けたい場合は、夫名義のカードで決済する必要があります。
実際には、ポータルサイト経由の決済ではカード名義が自治体に伝わらないことが多く、名義が異なっていても控除が通るケースはあるようです。
ただし、制度のルール上は寄附者と支払者が同一であることが求められていますので、余計なリスクを避けるためにも、本人名義のカードで決済しておくのが安全です。
意外と知らない落とし穴
返礼品が一時所得になることがある
返礼品は「経済的利益」にあたるため、一時所得の対象になり得ます。一時所得には年間50万円の特別控除がありますので、通常の範囲のふるさと納税であれば課税されるケースはかなりまれです。
ただし、高額な返礼品を多数受け取った場合や、生命保険の満期金など他の一時所得がある場合は、合算して50万円を超える可能性があります。特に他の一時所得がある方は確認しておくと安心です。
もし申告を間違えてしまったら
ここまで読んで、「もしかして自分も間違えていたかも」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
でも、安心してください。
確定申告の期限を過ぎていても、「更正の請求」という手続きで税金を取り戻せる場合があります。
寄附金控除の記載漏れや計算ミスに後から気づいた場合、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求が可能です。
「もう期限が過ぎたから仕方ない」と諦めず、気づいた時点で対応を検討してみてください。
確定申告前のチェックリスト
ここまでの内容を、チェックリストにまとめました。確定申告の前にひと通り確認してみてください。
ワンストップ特例まわり
- ワンストップ特例を申請した後に、確定申告をする予定はないか?
- 医療費控除や住宅ローン控除(初年度)など、確定申告が必要な事情はないか?
- 寄附先は5自治体以内に収まっているか?
控除上限額まわり
- 今年の所得に基づいて、上限額を改めて計算したか?
- 年末以降に判明した経費や未払金で、所得が変わっていないか?(自営業の方)
- 税務ソフトやシミュレーションサイトが最新の税制改正に対応しているか?
- 医療費控除や住宅ローン控除等との併用で、控除しきれなくなっていないか?
手続き・名義まわり
- 寄附金受領証明書は手元にあるか?(なければXMLデータやサイト発行の証明書で代替可)
- 寄附者名義と決済に使ったクレジットカードの名義は一致しているか?
- 確定申告書に寄附金控除の欄を正しく記載したか?
その他
- 返礼品の合計額が高額になっていないか?(他の一時所得と合わせて50万円超に注意)
- 過去の申告で寄附金控除の記載漏れはないか?(5年以内なら更正の請求が可能)
そもそも、ふるさと納税ってどんな制度なのか
ここまで落とし穴を見てきましたが、そもそもふるさと納税はどのような制度で、なぜこんなに複雑なのでしょうか。少し立ち止まって、制度の成り立ちと今の姿を振り返ってみたいと思います。
ふるさと納税の正体は「税金の前払い」
ふるさと納税は「寄附金控除」の仕組みを使った制度ですが、その実態は翌年の税金の前払いに近いものです
一般的な寄附金控除は、寄附した金額に応じて所得税や住民税が軽くなる仕組みです。
ふるさと納税もこの枠組みを使っていますが、他の寄附金控除と大きく違うのは、上限額の範囲内であれば自己負担2,000円を除いた全額が税金から戻ってくるという点です。
つまり、今年ふるさと納税として支払ったお金は、翌年納めるはずだった住民税(と一部の所得税)が減額される形で返ってきます。
「寄附」という名前がついていますが、経済的には翌年の税負担が軽くなるという結果になるので、実質的には来年の税金を今年のうちに払っているような感覚に近いわけです。
ここに自己負担2,000円で返礼品がもらえるので「お得」と言われるのですが、裏を返せば、手元の資金が先に出ていくという側面もあります。
特に年末に駆け込みで高額の寄附をする場合、一時的にキャッシュが減ることは頭に入れておいたほうがよいかもしれません。
この「税金の前払い」という視点を持っておくと、先ほどお話しした限度額の計算がなぜ大事なのか、超えてしまうとなぜ損になるのかも、すっきり理解できると思います。
制度の成り立ちと今
ふるさと納税は2008年にスタートした制度です。地方で育った人が都市部に出て納税すると、育てた側の自治体には税収が入らない——この問題を解消するために、「応援したい自治体に寄附できる仕組み」として作られました。
当初は利用者が限られていましたが、2011年の東日本大震災で被災地支援の手段として注目され、2015年には控除上限額の引き上げとワンストップ特例制度の導入で一気に普及。2024年度の寄附額は約1兆2,700億円と過去最高を更新しています。
本来の理念は「ふるさとへの恩返し」や「地方の応援」ですが、現実には返礼品の魅力で寄附先を選ぶ方が大半です。総務省は2019年に返礼品の調達費を寄附額の3割以下とするルールを導入し、2025年10月からはポータルサイトによる独自のポイント付与も原則禁止。経費を寄附額の5割以下に収めるルールもより厳格になっています。
今回の確定申告(令和7年分)は、9月までのポイントが付く時期と10月以降のポイントなしの時期が混在する年です。ポイント終了直前の駆け込みでふるさと納税を行った方も多いのではないでしょうか。
それだけに、上限額を超えていないか、ワンストップの条件を満たしているか、例年以上に丁寧な確認が必要な年だと言えます。
知っていますか?返礼品のないふるさと納税
ふるさと納税には、返礼品を受け取らない「寄附のみ」の選択肢もあります。
特に活用されているのが災害支援です。
能登半島地震の際にも、ふるさと納税の仕組みを使って被災自治体に寄附する動きが広がりました。
返礼品がない寄附では、返礼品の調達費や送料などがかからないため、自治体が実際に使える財源が、返礼品付きの寄附よりも大きくなります。
ポータルサイトによっては災害支援の寄附に対してサイト利用手数料を取らない運用をしているところもあります。
返礼品のお得さばかりが注目されがちですが、こうした使い方を知ると、ふるさと納税の見え方が少し変わるのではないでしょうか。
制度を使う側として考えておきたいこと
ふるさと納税は、利用者にとってはお得な制度であることは間違いありません。
ただ、その裏側では自治体間の税収の奪い合いや、返礼品の調達・ポータルサイトへの手数料など、寄附金の約半分が返礼品や経費に使われているという構造もあります。
実際に使ってみて、私自身も考えるところがありました。
親戚に北陸出身の者がおりまして、今回のふるさと納税ではそのゆかりの地である富山のある町に寄附をしました。
私が川崎市に納めるべき住民税の一部は、その町に回ってしまいました。といっても、ふるさと納税には限度額があるので、住民税のほとんどは今住んでいる川崎市にきちんと納められています。
育ててくれたふるさとには人が戻らず、税収も増えないという問題は確かにあります。
私自身も富山にルーツがあるのに、今住んでいる自治体にしか税金を納められない。
ふるさと納税はその構造に対する一つの答えとして作られた制度です。
完璧な仕組みではないけれど、寄附先を自分の意思で選べるという点には意味があると、使ってみて感じました。
「お得だから使う」というのも合理的な判断ですが、制度の成り立ちや課題を知ったうえで利用すると、寄附先の選び方も少し変わるかもしれません。
その富山の町から届いた返礼品は、色とりどりのチューリップの花束でした。
普段自分では買わないものを選んでみたのです。
ゆかりの地から届いたチューリップを玄関に飾ったところ、あのふるさと納税に否定的だった家族が「これが一番良かった」と大満足してくれました。
返礼品のお得さだけでなく、「この地域を応援したい」という気持ちで寄附先を選ぶ。それがふるさと納税の本来の姿なのだろうと、改めて感じた出来事でした。
まとめ
ふるさと納税は、上手に活用すればとてもお得な制度です。
ただ、今回自分で限度額いっぱいまで使ってみて、改めてこの制度の複雑さを実感しました。
税理士でも慎重に計算しなければならないくらいですから、「なんとなく」で済ませてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
確定申告の前に、ぜひこの記事のチェックポイントを振り返ってみてください。
ふるさと納税や確定申告についてわからないことがあれば、国税庁の「確定申告電話相談センター」やお住まいの地域の税務署に問い合わせてみてください。
税金の数字の向こうには、その人の生活があり、家族の物語があります。
制度を正しく理解し、納得したうえで使うこと。そして、数字だけでなくその背景にあるものまで一緒に考えること。それが、私が税理士として大切にしていることです。
