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日本で相続税申告を終えたけど、アメリカでは何もしないで大丈夫?

最近では、海外に資産や家族を持つご家庭も珍しくなくなりました。
国境を越える相続は、もはや特別な人たちだけの話ではありません。
銀行口座ひとつ、株式ひとつ。
そこに海外の要素が加わるだけで、相続手続きががらっと変わります。
私はこの登戸の街で、そんな「小さな国際相続」の相談を受けています。
インターネットで各国の法令資料がすぐ手に入る時代だからこそ、
国境を越える法律や税のしくみを、人のことばに戻して、丁寧に伝えることが大切だと感じています。
米国遺産税は「被相続人の立場」で判断される
アメリカでは、日本の「相続人課税」と異なり、遺産そのものに課税する“遺産税(Estate Tax)”が基本です。
課税範囲は相続人の居住地ではなく、被相続人の居住地(domicile)と資産の所在地(U.S.-situs)で決まります。
非居住・非市民(NRNC)の被相続人でも、U.S.-situs資産が“約6万ドル”超であれば、
米国遺産税申告(Form 706-NA)が必要です。
この「約6万ドル」は“控除”ではなく、統一クレジット$13,000〔IRC §2102(b)(1)〕で実質相殺される上限にあたります。
一方、米国居住者・市民の遺産には大きな基礎控除が適用されます。
- 2025年:$13.99M
- 2026年以降:$15Mに恒久化(以後インフレ連動) —— OBBBA(2025年7月施行)により確定しました。

アメリカの遺産税って“超富裕層だけの税”って聞いてます。うちは関係ないと思いますよ



そこは注意が必要です。非居住者には実質6万ドルしか非課税枠がありません。一般家庭でも対象になり得ます。
🧭 日米租税条約による免税枠の按分
被相続人が日本居住でも米国資産を持つ場合、
日米租税条約(1954年署名、1996年改正)第8条により、
米国居住者が使える大きな控除額を「米国資産の割合」に応じて按分して使えることがあります。
たとえば全財産のうち1割が米国資産であれば、
米国居住者の基礎控除(例:$15M)の1割=$1.5Mが非課税枠として利用できる計算です。
この適用を受けるには、Form 706-NA上で条約適用を明示し、説明書を添付する必要があります。



被相続人が日本居住でも一部の控除を使えるんですね。



はい。条約で“按分”が認められていますが、申告で意思表示をしないと適用されません。
“U.S.-situs”は名称でなく実態で判定
資産が「どこの会社の商品か」ではなく、米国内の経済活動とどの程度関わるかで判断されます(IRC §2103〜§2105)。
| 資産の種類 | 取扱い(NRNC) | 典拠 |
|---|---|---|
| 米国内不動産 | 課税対象 | IRC §2103 |
| 米国法人株式 | 課税対象(国内証券口座で保有でも同じ) | §2104(a) |
| 外国法人株式 | 原則非課税 | §2105(d) |
| 米国内銀行の非事業性預金 | 非課税 | §2105(b), Reg. §20.2105-1(k) |
| 米国内事業に関係する預金 | 課税対象 | Reg. §20.2104-1(a)(7) |
| 生命保険金(死亡保険) | 非課税 | §2105(a) |
| 投資型保険・年金(annuity/variable) | 実態により異なる→要精査 | Reg. §20.2105-1(e) |
| 退職年金口座(IRA・401(k)) | 原則U.S.課税圏→要精査 | 実務慣行 |



日本の証券口座で買った米国株も対象ですか?



そうです。米国法人株式はU.S.-situs資産です。
なお、U.S.-situsの定義は連邦法で共通ですが、
州ごとに異なるのは遺産手続(probate)や州独自の遺産税・相続税です。
2025年現在、12州+DCが遺産税を、5州(KY, MD, NE, NJ, PA)が相続税を課税しています。
メリーランド州は両方を持つため、合計17の州・地域で何らかの州レベル課税が存在します。
(アイオワ州は2025年1月1日に相続税を廃止済。)
相続人の居住地によっても手続きが変わる
相続人が米国居住者(U.S. person)
米国市民・永住者・居住者(U.S. person)は、
たとえ日本の財産を受け取っただけでも、
Form 3520(外国からの相続・贈与の報告)をIRSに提出する義務があります(IRC §6039F)。
- 対象:外国からの相続・贈与で10万ドル(約1,500万円)超を受けた場合
- 期限:翌年4月15日(延長で10月15日まで)
- 罰金:未報告額の5〜25%(月5%×最大5か月)
また、受け継いだ日本資産から生じる利息・配当・譲渡益は、
Form 1040上で外国所得(foreign-source income)として報告します。



10万ドル超って、日本円でどのくらいでしたっけ?



1,500万円前後です。未報告だと最大25%の罰金になります。
相続人が日本居住者(U.S. personでない)
相続人が日本居住者で、U.S. personに該当しない場合は、
Form 3520の提出義務はありません。
ただし、これは相続人側の報告が不要というだけ。
被相続人にU.S.-situs資産が約6万ドル超ある場合は、
米国遺産税申告(706-NA)が必要です。



706-NAと3520は別物なんですね。



はい。706-NAは被相続人の遺産税、3520は相続人の報告義務です。
日本と米国の申告期限はほぼ並行して進む
| 手続き | 対象 | 期限(原則) |
|---|---|---|
| 日本の相続税申告 | 日本居住の被相続人 | 死亡から10か月 |
| 米国遺産税(Form 706-NA) | NRNCでU.S.-situs資産あり | 死亡から9か月(Form 4768で+6か月延長可) |
| 米国報告(Form 3520) | U.S. personの相続人 | 翌年4/15(延長で10/15) |



日本で相続税申告が終わってから米国での手続きを考えるでは遅いですか?



遅いです。米国遺産税の期限は死亡から9か月後です。日本の手続きと並行で動かす意識が必要です。
日本の税理士の守備範囲と役割
日本の税理士は日本法の専門家であり、米国申告(706-NA/3520)を直接代行することはできません。
ただし、米国側手続きの漏れを防ぐために、
- 「米国にも申告制度があります」
- 「期限は並行して動きます」
- 「現地専門家に早めに確認してください」
といった注意喚起ができる責任感のある税理士に、日本での相続税申告を依頼することが重要です。



米国での手続きの専門家は自分で探すしかないんですか?



アメリカでは州ごとに手続きや税法も異なります。
お住まいの州、または財産のある州のCPAや弁護士を直接探して相談するのが、いちばん効率的で確実です。
まとめ ― “普通の相続”でも油断は禁物
- 被相続人の居住地(domicile)
- 財産の所在(U.S.-situs資産の有無)
- 相続人の居住地(報告義務の有無)
この3点が国際相続の判断軸です。
非居住・非市民(NRNC)の6万ドル相当は非常に小さく、米国株や投資型保険を少し持っているだけでも申告対象になり得ます。
また、日本の申告期限10か月に対し、米国は9か月(延長6か月)で動きます。
早めの段取りと、現地専門家との連携が安全です。
相続には、法律や税金の向こうに、その人の生きた時間や思いが息づいています。
国際相続というと、どうしても大規模な案件や海外の専門事務所を思い浮かべがちです。
けれど、実際には「小さな国際相続」――たとえば、海外に少しの資産や家族がいるというご相談も少なくありません。
そうした一件一件に丁寧に向き合い、橋渡しを担うこと。
それが、登戸の小さな事務所である弊所の役割だと考えています。
海外にお住まいの方、日本と海外を行き来されている方も、オンライン面談でのご相談が可能です。
Zoom等を利用して、国内外どこからでも安心してご相談いただけます。
日程の調整やお申し込みは、下記の 専用フォーム から承っております。
距離にとらわれず、丁寧にお話を伺いながら、最適な手続きをご案内いたします。
🔑 要点
- 日本の相続税申告:死亡から10か月
- 米国遺産税(非居住・非市民(NRNC)):U.S.-situs資産が約$60,000超で706-NA提出(9か月以内、Form 4768で延長可)
- 相続人がU.S. personの場合:Form 3520($100,000超)を翌年4/15まで提出(延長可)、未報告は最大25%罰金
- 基礎控除(居住者/市民):2025年$13.99M → 2026年以降$15M(OBBBAにより恒久化)
- 日米租税条約第8条(1954署名/1996改正):日本居住者でも米国資産割合に応じて基礎控除を按分適用可能
- 州レベル課税:17の州・地域(遺産税12+DC、相続税5/MDは両方)— IA州は2025年に相続税廃止済
参照条文・資料一覧(2025年11月時点)
🇯🇵 日本法・通達等
- 相続税法 第27条(申告期限)
- 相続税法 第22条の2(外国税額控除)
- 国税庁基本通達27条関係(令和7年版)
🇺🇸 米国法・通達等
- IRC §2102(b)(1), §2103〜§2105, §6039F, §2056A
- Treasury Reg. §20.0-1(b), §20.2104-1(a)(7), §20.2105-1(e),(k)
- One Big Beautiful Bill Act (2025年7月施行)
条約・国際資料
- 日米租税条約(1954署名/1996改正)Article 4, 8
IRS資料
- Instructions for Form 706-NA (Rev. 9/2025)
- Instructions for Form 3520 (Rev. 12/2023)
- Publication 559 (2024)
- Form 4768 (Rev. 2020)
州税関連参考
- Accountably.com “Nonresident Estate Tax Filing Guide & Deadlines” (2025)
- Drake Accounting “State Estate and Inheritance Tax Summary 2025”
