チェアパッド

私の事務所には、白い椅子があります。

開業したころ、IKEAの通販で買いました。白くて、肘掛けがついた、ごく普通の椅子です。

しばらくしてIKEAの店舗へ行ったとき、店内にあるだだっ広いレストランに入って驚きました。

私が買ったものとよく似た白い椅子が、そこにずらりと並んでいたのです。

違うのは、レストランの椅子には肘掛けがないことくらいでした。

どうやら私は、IKEAのレストランの椅子に肘掛けをつけたようなものを、お客様用の椅子として選んでいたらしい。

開業したばかりのころ、その白い椅子に何度も座ったお客様がいました。

足の悪い方でした。事務所からそう遠くないところにお住まいでしたが、来られるときはタクシーを使っていました。

相続の仕事では、こちらからお聞きしなければならないことがいくつもあります。その方にも、何度か事務所まで来ていただきました。

通帳や書類を広げ、ひとつずつ話を聞いていきます。

その間、その方はずっと、あの白い椅子に座っていました。

何度目かに来られたとき、その方は座面に敷くものを持参されました。

何か言われたわけではありません。

ただ、それを見て、私は初めて気づきました。

この椅子は、長く座っているには硬いのだ。

私はまず、クッションをひとつ買ってみました。

身体を支えて、楽に座れるよう考えてつくられたものでした。「思いやり」という意味の名前がついたシリーズの商品です。IKEAにしては、いいお値段でした。

ところが、あの白い椅子には、どうもうまく合いません。

背もたれに当てると、厚みがありすぎて身体が前へ押し出されるようです。座面に敷くと、今度は座る位置が高くなりすぎます。

次に買ったのは、薄いチェアパッドでした。安いものです。これもIKEAでした。

敷いてみると、こちらのほうがずっと良いのでした。

私はいつも、机のこちら側に座っています。

自分の椅子は、長い時間仕事をするために選んだものです。毎日座るものだから、自分の身体に合うものを使っています。

けれど、机の向こう側に置いた白い椅子については、そこまで考えていませんでした。

そこに座るのは私ではないから、私はその椅子の硬さを知らなかったのです。

白い椅子は、今も買い替えていません。

開業したころにIKEAで買った、あの椅子のままです。

ただ、あのころとは少しだけ違います。

白い椅子の上には、チェアパッドが一枚、敷いてあります。

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