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第6回:国際相続の期限、10ヶ月だけ気にしていれば大丈夫?

前回は、専門家の選び方を考えた。
この回では、国際相続のスケジュール——「いつまでに何をやる必要があるか」を整理する。
📌 この記事のポイント 10ヶ月より前に来る期限がある。海外の手続きには「待ち時間」がある。だから普通の相続より早く動き始める必要がある。
10ヶ月より前に来る期限がある
まゆさんがカップを置いて、窓の外に目をやった。多摩川の向こうの空がゆっくり色を変え始めている。
「まゆさん、国際相続って、10ヶ月あればなんとかなるんですよね?
普通の相続と期限は同じなんでしょう?」
「期限は同じ10ヶ月。でもね、10ヶ月だけ気にしていればいいわけじゃない」
「……どういうことですか?」
「10ヶ月より前に来る期限があるの。準確定申告って聞いたことある?」
華輪クンは首をかしげた。
「名前だけは。大学のゼミで出てきたような……。
亡くなった人の確定申告を、相続人がやるやつですか」
「そう。期限は相続開始から4ヶ月以内。これ自体は普通の相続でも同じ」
「4ヶ月。10ヶ月の半分もないじゃないですか」
「しかも国際相続だと、この4ヶ月の間に、普通の相続では出てこない課税が発生することがあるの」
準確定申告が必要になるケースは普通の相続でもある。
問題はその先にある。
「普通の相続では出てこない課税って、何ですか?」
「『国外転出時課税』という制度。出国税とも呼ばれるけれど——」
「出国税。それゼミで出てきました」
「じゃあ名前は知ってるわね。
被相続人が1億円以上の有価証券等を持っていて、相続人の中に海外に住んでいる方がいると、この課税が発生することがある。
国内の株も含めて1億円よ」
「国内の株も? 海外の話じゃないんですか?」
「国内も含めてよ。しかもね、1億円って聞くと大金持ちの話に聞こえるかもしれないけれど、長年の積立投資や退職金で株を持っている方は珍しくない。
お子さんが海外赴任中というおうちも今どきごく普通でしょう。意外と身近な話なの」
「……それ、けっこう当てはまる家庭ありそうですね」
「そうなの。で、この制度が関わってくると、4ヶ月以内に課税と申告が発生する。
まあ、難しい話はまた今度にして、ポイントは、こういう制度があるということと、4ヶ月という期限に関わるということ」
華輪クンは腕を組んだ。
「……それ、父の元同僚とか、子どもが海外赴任中って家庭、何軒もありますよ。
僕だって商社にいる以上、父に何かあったとき自分が海外赴任中かもしれない」
「だからこそ、早めに税理士に相談して、自分のケースが該当するかどうか確認することが大事なの」

国外転出時課税は、制度の存在自体を知らない人が多い。
知らないまま4ヶ月を過ぎてしまうのが一番怖いの。
それからもう一つ。
米国に資産がある場合は、米国側にも申告期限がある。
米国遺産税の申告期限は亡くなってから9ヶ月で、日本の10ヶ月より先に来る。
相続人が米国に住んでいる場合にも、別途報告義務が生じることがある。
「9ヶ月に4ヶ月に10ヶ月。期限がいくつも重なってるんですね」
「そう。だから国際相続では、10ヶ月だけ見ていると足をすくわれることがある」
海外の手続きには「待ち時間」がある——早い段階から並行して動かす
国際相続のスケジュール
税務申告に関わる主な期限
プロベート(裁判所を通じた相続手続き)の要否確認
残高証明書の請求、サイン証明の取得
数週間〜数ヶ月、場合により1年以上
「じゃあ、期限に間に合わせるにはどうすればいいんですか。全部を同時に走らせるしかない?」
「まさにそう。国際相続では、国内の準備と海外の手続きを並行して進めることが大切なの」
海外の金融機関に残高証明書を請求するだけでも、時差や言語の壁、本人確認の手続きがあり、数週間から数ヶ月かかることがある。
海外に住んでいる相続人がサイン証明(印鑑証明の代わりになるもの)を取得するには、在外公館に出向く必要がある。
プロベート(裁判所を通じた相続手続き)が必要な場合は、数ヶ月から1年以上かかることもある。
「うちの父のアメリカの口座、残高照会するだけで2週間かかったって母が言ってました。
相続になったらもっとかかりますよね」
「その通り。しかもこちらからコントロールできない。先方の都合で止まることもある」
これらの「待ち時間」は日本側からコントロールできない。
だからこそ、「まず国内を片付けてから海外を」ではなく、海外の手続きは相続が始まったらできるだけ早く着手する。
とくに時間がかかるもの——海外の金融機関への問い合わせや、プロベート(裁判所を通じた相続手続き)が必要かどうかの確認——は最優先で動かす。
「要するに、10ヶ月あるからゆっくりやろうと思ったら詰むってことですか」
「きつい言い方をすると、そう。でも逆に言えば、全体像が見えていれば計画を立てて対応できる」
全体像を把握して、早めに専門家に相談する
「じゃあ、最初にやるべきことは何ですか。いきなり海外の金融機関に電話する?」
「その前に、全体像を把握すること。準確定申告が必要かどうか。国外転出時課税に該当しないか。米国への申告・報告義務はあるか。海外にどんな財産があるか。——これを早い段階で確認することが、結果を左右する」
「それって、自分でやるんですか?」
「国際相続に対応できる税理士に相談すれば、何を優先して動かすべきか整理できる。全部を自分で判断する必要はない。ただ、相談に行くタイミングが遅いと手遅れになることがある。第3回で話したこと、覚えてる?」
「かなり進んでからでは取り返しがつかない、でしたよね」
「そう。国際相続では、それが期限の話に直結するの」



10ヶ月だけ見てたら足をすくわれる。
4ヶ月の期限と、海外の「待ち時間」
——この二つを知っているかどうかが分かれ目ですね。
まゆさんがカップを置いて立ち上がった。「さ、鳥を見に行く時間だ」。
多摩川の夕暮れが、窓の向こうに広がっていた。
相続税の申告期限10ヶ月は、普通の相続と同じです。
でも国際相続では、それより前に来る期限があります。とくに準確定申告の4ヶ月。国外転出時課税に該当する場合もこの期限です。
ここを意識しないまま過ぎてしまうケースが、一番怖いです。
海外の手続きには時間がかかります。早い段階から並行して動かすことが、この期限を乗り切る鍵です。
ここまでの6回で入門編は終わりです。
次回からは、どの国の法律が使われるのかという論点から、具体的に見ていきます。
免責事項
このシリーズは、国際相続が関係するかもしれない方が、ご自身のケースで何が問題になりうるかを知り、専門家に相談する準備ができるようになることを目的としています。わかりやすさを優先しているため、法令の厳密な表現とは異なる場合があります。記事の内容は一般的な説明であり、個別の税務アドバイスではありません。具体的なご判断は、国際相続に詳しい税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
