相続した空き家を売るときの税金と特例

親から実家を相続したものの、誰も住んでいない──そんな「空き家」の数は年々増えています。

総務省「住宅・土地統計調査(速報集計・2023年)」によると、空き家は900万戸、空き家率13.8%と過去最高を記録しました。一部の民間推計では「2030年代〜2040年代には3割前後に達する可能性」も示されており、深刻さを増しています(NRI 2033年推計30.4%、国交省関連資料では2043年25〜32%程度など)。

空き家を放置すると…

  • 毎年の固定資産税が発生
  • 倒壊や火災リスクの高まり
  • 近隣からの苦情や治安悪化
  • 特定空き家指定 → 固定資産税が数倍になる

実家を相続しましたが、誰も住まないし、固定資産税ばかり払っていて…
そのまま放置するとリスクが高まります。でも“空き家特例”を活用して売却すれば、税金を大幅に抑えられるんです。

目次

空き家を売却するとかかる税金の基本

譲渡所得の計算式

空き家を売却すると「譲渡所得税」がかかります。
計算式はシンプルです。

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費+譲渡費用)

  • 取得費:被相続人が購入したときの価格や建築費などを引き継ぎます(相続評価額ではありません)
  • 譲渡費用:仲介手数料、測量費、解体費など。

税率

譲渡所得にかかる税率は、所有期間によって異なります。

  • 長期譲渡(所有期間5年超)
     所得税15%+住民税5%+復興特別所得税(所得税×2.1%)=20.315%
  • 短期譲渡(5年以下)
     所得税30%+住民税9%+復興特別所得税(同2.1%)=39.63%

復興特別所得税は2037年分まで継続。

相続の場合、被相続人の所有期間を通算できるため、多くは「長期譲渡」に該当します。

税金の目安

例:譲渡所得2,000万円(長期譲渡の場合)
2,000万 × 20.315% ≒ 406万円(端数処理あり)

2,000万円の利益で400万円以上も税金ですか!

はい。でも“空き家特例”を使えばゼロにできる可能性があります。

空き家特例とは?

制度概要

租税特別措置法35条3項・施行令23条に基づき、相続した空き家を一定の条件で売却した場合に最大3,000万円を譲渡所得から控除できる制度です。

適用期間

平成28年4月1日〜令和9年(2027年)12月31日までの譲渡。

令和9年12月31日までが現行の期限ですが、これまでも延長されてきた経緯があり、将来的に延長される可能性もあります。制度利用を考える方は、毎年の税制改正情報を確認してください

控除額

  • 相続人が1人または2人 → 最大3,000万円控除
  • 相続人が3人以上 → 2,000万円控除(令和6年1月1日以降の譲渡から)

売却価額要件

譲渡価額1億円以下であること。

制度趣旨

人口減少や高齢化により急増する空き家を減らし、倒壊や火災などのリスクを回避するために導入されました。

売却額が大きい場合や相続人が多い場合は注意が必要なんですね。

はい。額と人数で控除額や可否が変わります。

適用条件

主な適用要件は以下のとおりです。

  1. 対象建物
    • 昭和56年5月31日以前に建築された住宅
    • 区分所有建物ではない(マンション不可)
    • 相続直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと
  2. 譲渡期限
    • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
  3. 譲渡価額
    • 1億円以下
  4. 耐震要件/除却要件
    • 売却時点で耐震基準を満たす
    • 更地にして売却
    • または令和6年1月1日以後の譲渡なら「買主が譲渡後に耐震改修または除却」を行う場合も対象(ただし譲渡の翌年2月15日までに実施)
  5. 譲渡先制限
    • 親族や同族会社だけでなく、「特別の関係がある人」も不可
      (親子・夫婦・生計一親族・売却後同居する親族・内縁・特殊関係法人など)
  6. 利用制限
    • 相続開始から譲渡(または除却)までの間、事業用・貸付用・他人居住用として使っていないこと

思ったより細かい条件が多いですね。

はい。建物の築年や売却先、期限などの条件を一つひとつ確認する必要があります。相続からしばらくして売却する場合、条件をクリアすれば特例の対象となるケースがあります。

手続きと必要書類

  1. 市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」を取得
  2. 確定申告で特例を適用(翌年)
  3. 添付書類:登記事項証明書、耐震基準適合証明書、工事証明書など(国交省が最新様式を公表)

書類が揃わないとどうなりますか?

その場合は特例が使えません。準備がとても大事なんです。

税金シミュレーション

長期譲渡(税率20.315%)を前提に計算。

譲渡所得特例なし税額特例あり税額節税額
1,500万円約305万円0円約305万
2,800万円約569万円0円約569万
3,500万円約711万円約102万円約609万

同じ売却額でも、特例の有無でこんなに違うんですね。

はい。制度を知っているかどうかで税額が大きく変わります。知識がそのまま節税につながるわけです。

ケース1:築50年木造を更地にして売却

売却価格2,500万円 → 譲渡所得2,000万円 → 全額控除でゼロ。

ケース2:古い家をそのまま売却、買主がリフォーム予定

売却価格3,200万円 → 譲渡所得3,000万円 → 全額控除でゼロ(令和6年1月1日以降の譲渡、翌年2/15までに耐震改修必須)。

令和5年度税制改正により、現況のまま売却しても、買主が譲渡後に耐震リフォームや除却を行えば特例の対象にできるようになりました。
ただし、買主が譲渡を受けた翌年の2月15日までに工事を完了し、その証明書類を提出する必要があります。

ケース3:相続から4年後に売却

売却価格2,400万円 → 譲渡所得2,000万円 → 特例不可 → 税額約406万円。

ケース4:弟に売却

「特別の関係者」に該当 → 特例不可。

ケース5:建て替え後にマンションを売却

区分所有建物は対象外 → 特例不可。

売却のタイミングや相手先まで厳密に決まっているんですね。

はい。ここを間違えると特例が使えません。

よくある質問(Q&A)

Q. 二世帯住宅でも対象になりますか?
A. 区分登記された分離型二世帯住宅は対象外。一体型で主に被相続人が居住していた場合は対象となる可能性あり。

Q. 駐車場や物置として利用していた場合は?
A. 居住用ではないため対象外。

Q. 共有名義の場合は?
A. 持分ごとに判定。ただし「譲渡価額1億円以下」の判定は合算で行うので、分割して売却しても合計で1億円を超えると不可。

Q. 他の特例と併用できますか?
A. 相続税の「取得費加算の特例」とは併用不可。注意が必要です。

取得費加算の特例とは、相続や遺贈で財産を取得し、相続税を納めた場合に使える制度です。相続税額の一部を「譲渡資産の取得費」に加算できる仕組みで、譲渡所得を圧縮し、結果として税負担を減らす効果があります。
「相続税の取得費加算の特例」と「空き家特例(3,000万円控除)」は同時に使うことはできません。どちらか有利な方を選ぶ必要があります。相続税の負担が大きかった場合は取得費加算が有利になることもあるため、比較検討が重要です。

まとめ:相続空き家を売却するなら早めの行動を

  • 空き家特例で最大3,000万円控除(相続人3人以上は2,000万円)
  • 売却価額1億円以下が条件
  • 相続から3年以内が期限
  • 耐震要件・売却先制限など条件多数
  • 書類不備や期限超過で適用できない

空き家特例のよくある失敗例

  1. 期限切れでアウト
    • 相続から3年を経過する年の12月31日を1日でも過ぎて売却してしまった。
    • 例:2021年相続 → 2024年12月31日までが期限なのに、2025年1月に契約したため適用不可。
  2. 売却先が親族だった
    • 弟や子供などの「生計を一にする親族」に売却したケース。
    • 「第三者に売ったから大丈夫」と思っても、特別関係者(親族やその法人等)だと特例は使えない。
  3. 耐震リフォームをしないまま売却(改正前の誤解)
    • 令和5年改正前は「現況のまま売却」だと対象外だったため、
      知らずにそのまま売却してしまい控除を逃したケース。
    • 今は改正で救済されているが、買主が工事をしないとやはり適用不可。
  4. 二世帯住宅の扱いでミス
    • 区分所有登記の「分離型二世帯住宅」を相続して売却したが、そもそも空き家特例の対象外
    • 「一体型」なら対象になることもあるが、判断が難しい。
  5. 確認書を取っていなかった
    • 市区町村発行の「被相続人居住用家屋等確認書」を申請し忘れて、確定申告に添付できず適用不可。
  6. 共有者間で不整合
    • 相続人が複数いて共有持分を別々に売却。
    • 合計の売却価額が1億円を超え、特例全体が否認された。
  7. 相続登記をしていなかった
    • 2024年4月から相続登記が義務化。登記がないと売却自体できないため、期限内に売却できず特例を逃す。

やっぱり専門家に相談して進めないと怖いですね。

空き家特例の“条件を満たすかどうか”の判定と手続きは複雑なので、プロに確認しておくのが安心です。

空き家特例は非常に有利な制度ですが、細かい条件や例外が多く、自分で判断するのは難しいものです。
当事務所は相続税専門の税理士として、「相続 空き家 売却 税金」に関するご相談を承っています。

目次