税務署が、ちょんとタッチする

相続税について、「簡易な接触」が増えている、という記事を読みました。

令和6事務年度の件数は2万件を超え、前事務年度より17%増えたそうです。

「簡易な接触」という言葉自体は、前から知っていました。

その記事には、会計事務所としてはこれを軽く扱わないことが重要だ、と書かれていました。

そこで改めて、この言葉を眺めてみました。

簡易な接触。

ずいぶん不思議な言葉です。

まず、「接触」。

「接触事故」とか、「接触プレー」とか、「宇宙人との接触」とか。

何かと何かが近づいて、本当に触れるような感じがあります。

もちろん、「人や組織と連絡を持つ」という意味もあります。

それでも、なぜ「連絡」ではなく、「接触」なのだろう。

和英辞書を引くと、まず contact と出てきます。

たしかに、接触=contact。

でも今回の「接触」は、単に連絡がつくというだけでもないように思えました。

税務署の側から文書を送る。
電話をかける。
場合によっては、税務署へ来るよう求める。

こちらが来るのを待つのではなく、向こうから働きかけてくる。

そこで、outreach という言葉も浮かびました。

税務署のほうから、にゅっと手が伸びてくる。

その手が届いたところに、税務署と納税者との接点ができます。

接点、と考えているうちに、マーケティングでいう touchpoint という言葉を思い出しました。

企業が、なかなかこちらを向いてくれない相手に、何度か接点をつくる。

税務署も、少し似ています。

本来なら、申告する側から税務署へ来るはずなのに、来ない。

そこで、税務署のほうから接点をつくる。

残るのは「簡易な」です。

何が、簡易なのでしょう。

国税庁の資料では、「簡易な接触」は「実地調査」と並べて扱われています。

実地調査なら、人がこちらへやって来る。税務の言葉では「臨場する」といいます。

簡易な接触なら、原則として人はやって来ません。手紙が来る。電話が来る。こちらが税務署へ行くこともある。

どうやら「簡易」なのは、税務署が接触する方法のことらしい。

では、この言葉を丸ごと、もう少し日常語に訳してみたらどうなるだろう。

接触は touch。

簡易なのは、その触れ方。

ちょっと、タッチする。

あるいは、

ちょん、とタッチする。

はがきで、ちょん。
封書で、ちょん。
電話で、ちょん。

そう訳してみると、「簡易な接触」という言葉が、急に分かるような気がしました。

ところが、同じようにタッチされても、人の反応はずいぶん違います。

税務署からはがきが届いただけで、あわてて私の事務所に飛び込んで来る人がいます。

調べてみれば、結局、相続税の申告そのものが必要なかった、ということもあります。

反対に、もう少し強く触れられても、なかなか動かない人もいます。

一度、タッチされる。

もう一度、タッチされる。

それでも、その人が税理士に相談するとは限りません。

「うちに相続税の申告が必要なわけがない」と思い込んで、平然としていることもあります。

税務署は、文書を送ることはできる。
電話をすることもできる。
接触の仕方を変えることもできる。

でも、そのあと人がどう動くかまでは決められません。

簡易な接触。妙な言葉です。

接触には相手がいます。

税務署がしたのは、ちょん、と触れるところまで。

その先で何が起きるかは、また別の話です。

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