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税務署は知っている

ある日、税務署から郵便物が届きました。
亡くなった父の相続について、と書いてあります。
相続税の申告が必要ではありませんか。
そんな内容でした。
家族は、少し気味が悪くなりました。
どうして税務署が、父が亡くなったことを知っているのでしょう。
税務署には、何も知らせていません。
相続税の申告もしていません。
病院でしょうか。
葬儀社でしょうか。
銀行でしょうか。
誰かが、税務署に知らせた?
「どうして税務署が知っているんですか」
この質問を、私はこれまで何度も聞いてきました。
相続の仕事では、戸籍謄本は当然のように見ます。
そこには、亡くなった日も、死亡届の届出人も記されています。
でも、死亡届そのものを見る機会は、それほど多くありません。
人が亡くなった直後、家族は忙しい。
葬儀社の人と打ち合わせをします。
親戚に連絡をします。
いつ、どこで葬儀をするのか。
誰を呼ぶのか。
次々に決めることがあります。
そして、次々に紙を書きます。
その中に、死亡届があります。
死亡届は、医師が作成する死亡診断書と一枚の紙になっています。
届出人になるのは、亡くなった人の親族などです。
けれども、書いた家族が自分で役所へ持っていくとは限りません。
葬儀社の人が預かって、役所へ持っていってくれることがあります。
「葬儀社でしょうか」は、少しだけ当たっています。
ただし、葬儀社が税務署に知らせたわけではありません。
届出人でもありません。
使者です。
家族が葬儀の準備をしているあいだに、使者は死亡届を持って家を出ます。
人は、勝手には葬れません。
火葬であれ、埋葬であれ、行政の許可が必要です。
死亡届を出し、火葬や埋葬の許可を受けます。
だから家族にとって、死亡届は、父を葬るために出す紙です。
そのとき、家族が見ているのは、そこまでです。
この前、私は「口座凍結スイッチ」という記事を書きました。
死亡届を役所に出す。
すると、どこかでスイッチが入る。
銀行に死亡の情報が伝わって、亡くなった人の口座が凍結される。
そんな仕組みがあると思っている人がいます。
でも、そのスイッチはありません。
死亡届を出したからといって、その情報が銀行へ自動的に送られるわけではありません。
では、税務署は?
こちらは、話が違います。
死亡届をきっかけに行政が持った死亡情報は、そこで止まりません。
現在は、戸籍の仕組みを通じて、死亡に関する情報が国税庁にも伝わるようになっています。
死亡届そのものが、税務署まで運ばれていくわけではありません。
でも、死亡届には、家族からは見えない配線があります。
父が亡くなった。
家族にとって、それはひどく私的な出来事です。
そ家族は葬儀の準備をしています。
そのころ、死亡届はもう家を出ています。
家族にとっては、役所に届ければ、それで死亡届の仕事は終わったように見えます。
でも、終わっていません。
見えない配線は、その先まで続いています。
だから、ある日、税務署から郵便物が届きます。
「なんで知ってるの?」
病院でもありません。
銀行でもありません。
誰かが、こっそり知らせたわけでもありません。
前の記事で探した「口座凍結スイッチ」。
銀行へ続く配線は、ありませんでした。
でも、同じ死亡届から、別の配線が延びていました。
その先にいたのが、税務署です。
家族は、税務署に父の死を知らせようとしたわけではありません。
父を葬ろうとしていただけなのです。
