お得の得です

徳田様、と書かれた封筒やメールは、いまでもときどき届きます。

得田という名字は、全国に千二百人ほどしかいないそうです。能登の地名に由来する名字で、その土地はいまは徳田と書きます。見慣れた徳の字に直されるのも、まあ、そりゃそうだと思います。

だから、あまり気にしていません。事務所の通称も、ひらがなの「とくだ税理士事務所」にしました。

電話で名乗ると、ときどき名前の漢字を聞かれます。

とくだ様、お名前の漢字を教えていただけますか。

長いあいだ、私はこう答えていました。

所得の得です。

所得の得ですね、と相手は復唱してくれます。丁寧な方だと、メモを取る間があります。

これで伝わった、と思います。

けれど、そのあと届く封筒やメールには、徳田様、と書いてあることがありました。

あら、やっぱり徳田なのね。

まあ、そうなるよね、と思って、そのまま本文を読みます。

あるとき、ふと言い方を変えてみました。

お得の得です。お買い得の得です。

すると、一発で通りました。

私は、それまで「お得」と言うのが、なんとなく恥ずかしかったのです。

税理士は、お得の達人だと思われがちな仕事です。節税の話なら、仕事として普通にします。それなのに、自分の名前を説明するときだけ、「お得」と言うのを避けていました。

所得という言葉を選んでいたのは、税理士らしいからではなく、得の字に少し服を着せたかったからなのかもしれません。

所得の得です、と言えば、少しきちんとして聞こえる。

お得の得です、と言うと、急に生活の匂いがします。

けれど、伝わるのは、そちらでした。

いまでは初対面でも、ときどき言います。

徳の高い徳田ではなく、お得な得田です。

気恥ずかしさを乗り越えたのか、味を占めたのか。

自分でもまだ分かりません。

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