小林亜星 ── 再婚家庭に残された、一通の遺言書

有名人の遺言書シリーズ — 遺す人、遺さない人、税理士が読み解く10の物語

遺言書を書くのは、気が重いものです。

いざ書こうとすると、制度や形式の壁も高く感じられます。

そんなときは、おなじみの有名人たちの遺言書をのぞいてみるのもいいかもしれません。

1932年、東京都生まれ。作曲家として、日立グループのCMソング「この木なんの木」、都はるみさんの「北の宿から」、レナウンの「ワンサカ娘」など、数多くの曲を手がけました。その数は生涯で約6,000曲ともいわれます。
俳優としては、ドラマ『寺内貫太郎一家』の頑固な父親役でも知られています。
前妻との間に息子が2人。離婚後に再婚し、再婚した妻との間に子どもはいませんでした。
2021年5月30日、88歳で亡くなりました。


目次

ちゃぶ台の父と、実際の家族

小林亜星さんといえば、ドラマ『寺内貫太郎一家』を思い出す人も多いでしょう。

東京の下町で石材店を営み、祖母や妻、息子、娘と暮らす頑固な父親。怒るとちゃぶ台をひっくり返す姿は、ドラマの名物でした。

けれども、亜星さん自身の家族は、ドラマの寺内家とは違っていました。

前妻との間に息子が2人。離婚して、再婚しました。

再婚した妻は、亜星さんのマネージャーとして長く仕事を支え、晩年には健康管理も担っていたと報じられています。

前妻との間の次男とは、晩年の約8年間、連絡を取らない状態が続いていたそうです。

テレビの中では、家族そろって暮らす頑固な父親。

現実には、再婚した妻がいて、離れて暮らす息子たちがいました。

全財産を妻に

亜星さんは、生前に遺言書を作成していたと報じられています。

その内容は、預貯金や不動産など、すべての財産を妻に相続させるというものでした。

『週刊女性PRIME』などの報道によれば、亜星さんが亡くなったあと、遺言に基づいて相続の手続きが進められていたといいます。

ところが、この遺言に不満を持った人がいました。

前妻との間に生まれた、次男です。

次男は、父親と長く疎遠になっていたうえ、葬儀にも呼ばれなかったと報じられています。

父親が亡くなったあと、全財産を再婚した妻に遺すという遺言の存在を知りました。

次男は自身のブログで、遺言への疑問や不満を表明しました。

妻に書かされたのではないか、という疑いも抱いていたと報じられています。

実際にそのようなことがあったと確認されたわけではありません。

ただ、次男が父親の遺言に納得していなかったことは、報道からうかがえます。

妻の次は、息子たちへ

2021年12月の『週刊女性PRIME』では、次男が不満を表明したものの、その時点では妻や弁護士に正式な連絡や書類を送っていなかったと報じられています。

一方、亜星さん一家と古くから付き合いのある友人は、別の話をしています。

亜星さん夫婦は、妻が亡くなったあとには息子2人に財産が渡るよう、別の遺言書も用意していたというのです。

まず妻に。そして、妻の次は息子たちに。

そんな考えがあったとすれば、「全財産を妻に」という遺言の見え方も少し変わってきます。

もっとも、前妻との息子たちは、再婚した妻の法定相続人ではありません。

妻自身が息子たちへの遺贈を遺言に書くなどの方法は考えられますが、実際にどのような仕組みを用意していたのかは、わかっていません。

長男は、遺言の内容を受け入れていたと伝えられています。

同じ父親の息子でも、遺言の受け止め方は違っていたようです。

遺言書に書けないこと

亜星さんが、妻に全財産を遺すという遺言を作成したこと。

その遺言について、次男が疑問を表明したこと。

そして、妻の死後には息子たちへ財産を渡すという、別の遺言があったと友人が語っていること。

私たちが知ることのできるのは、そうした報道の範囲です。

亜星さんがどのような考えで遺言を作成したのか、すべてが明らかになっているわけではありません。

遺言書には、財産を誰に遺すかを書くことができます。

けれども、それを読んだ家族がどう受け止めるかまでは、遺言書に書いておくことができません。


ここからは、税理士のワンポイント解説です。離婚したあとの親子関係と相続について、少しだけお話ししますね。

離婚しても、子は子です

夫婦が離婚すると、元の夫や妻には相続権がなくなります。

でも、親子関係は別です。

離婚しても、子どもは父母それぞれの相続人です。何年会っていなくても、親子であることは変わりません。

また、子どもには「遺留分」という、法律で保障された最低限の取り分があります。

例えば、相続人が妻と子ども2人の場合、子ども1人あたりの遺留分は、原則として遺産の8分の1に相当します。

遺言書に「全財産を妻に相続させる」と書かれていても、子どもは遺留分を侵害された場合、金銭の支払いを請求することができます。

ただし、請求するかどうかは本人が決めることです。

再婚して家族の形が変わっても、前の結婚で生まれた子どもの相続権はなくなりません。


参考資料

『週刊女性PRIME』2021年12月25日掲載記事(小林亜星さんの遺言、次男の反応、友人の証言)
https://www.jprime.jp/articles/-/22755

本稿は、公開された報道内容を素材として、「仮に報じられている状況が成り立つとしたら、法律上どのような仕組みが動くのか」を解説するものです。個別事情やご家族の意図を推測・断定する目的ではありません。あくまで『人はなぜその決断をしたのか』を税務と心理の両面から考察し、皆様の将来に活かしていただくためのケーススタディです。

目次