遺言書で失敗しないためには?

相続遺言相談室 on the web

 
遺言書を作ったはいいけど、かえってトラブルの原因となることもあると聞きました。
遺言書で失敗しないために、知っておいたほうがいいことはありますか?
 
せっかくの遺言書がトラブルの原因になってしまうことって、案外多いんです。

ないほうがマシだったなんて言われてしまうと、残念すぎますね。

そうならないために知っておきたいこととして、相続対策の中の遺言書の位置づけについて説明したいと思います。

遺言書は相続対策の一部に過ぎず、相続対策は遺言書だけで完結するわけではありません
遺言書を書く前にやるべきことがあり、
遺言書を書いた後にもやるべきことがある

それをきっちりやらないことには、遺言書は本来の効果を発揮できません。

遺言書を書くだけで安心してしまい、その前後のやるべきことを怠ると、残念な結果になりがちです。

木を見て森を見ずといいますか、問題の一部にしか対処しないことで失敗してしまうのです。

「遺言書の書き方」についての情報はたくさん出回っているのに、相続対策の流れにおける遺言書の位置づけについての情報はほほ見当たりません。

それで盲点となるからなのか、この手の失敗は意外に多いというのが私の実感です。

相続対策というより大きな流れの中で遺言書がどこに位置づけられるのか、しっかり把握しておきましょう。

相続対策の順序

相続対策を始めるにあたっては、順序に沿って進めることが大切です。

雑誌で読んだりセミナーで勧誘されたりして、思いつくままに対策を講じると、後で困ったことになるかもしれません。

例えば、

  • 相続税がかからないのに、節税用の保険に加入してしまった
  • 相続税対策のために生前贈与をしすぎて、自分の老後資金が足りなくなってしまった

といった事態になりかねません。

不要だと分かってから保険を解約すると原本割れで損失が生じるかもしれませんし、一旦贈与したお金を返してくれと頼むのも心苦しいですね。

一度実行した相続対策を取り消すのは、何もしていないところからスタートするよりずっと大変です。

なので、場当たり的な相続対策は危険ということをまずは知ってください。

では、相続対策はどのような順序で進めるのがいいのでしょうか?

3ステップで進める

おすすめは次の3つのステップに沿って進める、です。

財産の把握→財産の整理→財産の移転

これだけだと分かりにくいので、具体的な手段にブレークダウンしてみました。

やるべきこと 具体的な手段
財産の把握 財産目録を作成
財産の整理 必要な財産と不要な財産に整理する
必要な財産は自分で使う財産と家族へ遺す財産へと分ける
家族と話し合う
財産の移転 生命保険に加入する
財産を贈与する
遺言書を作成する
家族に想いを伝える

いきなり遺言書を書くと失敗します。

自分の相続で家族が困らないようにする、お世話になった人や団体に自分の財産を渡したいといった願いを遺言書で叶えるためには、いきなり遺言書に取り組むのではなく、まずは財産目録を作成して財産を把握することから始めます。

その上で、不要な財産を整理して、不要な財産は換金したり、必要な財産へと変えます。その際には家族の意見も聞いてみる必要があるでしょう。

それが済むと、ようやく「財産の移転」に移ることができます。

巷に話題になる「相続対策」とは、この3番目のステップに含まれる個々の手法(生命保険への加入、暦年贈与、遺言書の作成など)を指している場合がほとんどです。

でも、実際には、その前段階のステップとして、「財産の把握」と「財産の整理」があり、それらを怠ると、その相続対策は失敗に終わるリスクが高くなるのです。

財産の移転

財産の移転のステップは、更に小さいステップに細分化され、それらにも順序があります。
効果が高く、簡単に実行できるものから始めるのがよいでしょう。

まずは生命保険の検討から始めます。死亡保険金は遺産分割の対象とならないほか、相続税の計算においても法定相続人1人につき500万円が非課税になることから、遺産分割対策や相続税対策として確かな効果があります。

実行するのも保険を選んで加入するだけですので、簡単です。

まだ入っていないなら、加入を検討します。

その次が生前贈与です。非課税枠のある生前贈与として、暦年贈与や住宅資金資金、配偶者への自宅の贈与、教育資金の贈与など複数あります。自分の家族に最も望まれる贈与は何か、検討しましょう。

遺言書を検討するのはそれからです。法的要件を満たしているか、財産の記載に漏れはないか、適切な遺言執行者が指定されているか、遺留分を侵害していないかなど多面的に検討していきます。

生命保険への加入→生前贈与の実行→遺言書の作成→家族への伝達

遺言書で財産の分け方を指定することで相続税の節税が可能なことはありますが、遺言書で相続財産を減らすことは不可能です。
なので、遺言書の執筆に取りかかる前に、生命保険の仕組みを使って相続財産から切り離したり、家族に生前贈与することであらかじめ財産を減らしておく必要があるのです。
これら以外にも、アパートの建設や養子縁組のような大掛かりな相続対策をお考えの方がいるかもしれません。こうなると、相続対策のステップが複雑になり、遺言者が一人で進めるのは難しくなります。不動産会社や弁護士、税理士等に相談して進めるのが安全です。

まとめ

遺言書で失敗したくないなら、遺言書を書くことだけに囚われず、相続対策という大きな枠組みの中で遺言書を捉えることが大切です。

財産の把握

財産の整理

財産の移転
生命保険への加入→生前贈与の実行→遺言書の作成→家族への伝達

上の図が示すように、遺言書の作成というのは、相続対策の一連の流れの終わりに近い場所に位置します。
遺言書作成の前後にすべきことをしっかり押さえて実行すれば、せっかくの遺言書で失敗するリスクを防ぐことができるでしょう。
今回の記事は、堀口敦史『家族に迷惑をかけないために今、自分でやっておきたい相続対策』同文舘出版、2018年を参考に書きました。
著者は税理士ですが、税金対策以外の総合的な相続対策についてていねいに書かれている点で他に類を見ない良書です。
私はこれを読んで相続対策について感じていた色々なモヤモヤがかなり解消されました。
興味があれば、ぜひ読んでみてください。
ところで、記事で紹介した相続対策の流れの中に「家族で話し合う」、「家族に自分の想いを伝える」という項目が入っていたのにお気づきになったでしょうか。
遺言書で失敗しないためには、遺言書を書く前後における家族とのコミュニケーションを避けて通れません。
 
遺言書を書くこと自体よりも、その前後での家族とのコミュニケーションが課題になっている例が多い、というのが私の実感です。
 
このコミュニケーションの問題はとても深いテーマです。
専門範囲を超えてしまうというか、私の手に余る部分もあるのですが、それでも考察が必要な問題だと思っています。
いつか記事を改めて取り上げる予定です。
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