虹をかける

普段、事務所にはお昼過ぎから出ることが多いのですが、先日は午後の仕事の関係で、めずらしく朝、事務所に立ち寄りました。部屋の扉を開けてびっくり。机の真ん中に七色の小さな虹が浮かんでいます。周りを見ると、柱にも壁にも虹がかかり、部屋全体に光の粒がきらめいています。一瞬何が起きたのかと思いましたが、出窓に付けたサンキャッチャーを通過する太陽の光でした。

サンキャッチャーは、前に記事にしたように、長かった梅雨の日照時間の少ない時期に少しでも気持ちが晴れるようにと吊してみたものです。ところが、虹が出る気配は一向になく、クリスタルの美しさを愛ではすれど、虹のことはすっかり忘れていました。それもそのはず。この部屋に虹がかかるのは、私が不在の午前の時間帯だったのです。

当日は午後に別の場所でお客様の大切な書類を作成する仕事を控えていました。無事に作成できるかどうか、やってみないとわからない難しいケースで、朝から少し緊張していました。虹は希望の象徴といわれます。事務所で思いがけず虹を目にした私も自然と希望を感じ、「今日の仕事は上手くいくに違いない」という確信めいた気持ちになりました。

果たして、書類作成はスムーズに完了し、お客様に喜んでいただくことができました。宗教心の薄い私ですが、このときは虹のパワーに感謝しました。冷静に考えれば、サンキャッチャーを仕掛けたのは私自身に他ならず、虹が現れたのは決して神秘でも偶然でもありません。それで喜んでいるのはお目出たい奴だと笑われるかもしれません。でも、希望の種を自分でまいておいたという点こそが重要と思うのです。

虹といえば、少し前に遺言書の専門サイトを作った際に、バナーに虹のモチーフを配しました。遺言と虹の組み合わせがなぜか気に入って思い付きで採用したものですが、考えてみると、遺言書の作成も、心に虹をかけるために自ら種をまく行為かもしれません。

事務所に虹を出現させたサンキャッチャーの起源は、薄暗い室内になんとか光を取り入れようとする昔の人の知恵だったといいます。自分がいなくなった後のことをあれこれ心配して、どんよりとした気分で過ごしている人にとって、遺言書の作成には、不安を減らし、気持ちを明るくする効果があります(もちろん、適切な内容の遺言書を適切に作成・保管すれば、という条件付きではありますが…)。能動的で主体的なこのアクションは、「虹をかけるための種まき」のようなものではないでしょうか。あなたの思いがつまった遺言書は、あなたの心に虹をかけ、あなたがこの世を去った後は、あなたの大切な人の心に虹をかけてくれるのです。

遺言書が虹になぞらえるほどのラッキーアイテムであるという私の認識は、遺言書の作成支援に携わる者にとってさほど突飛なものではないはずです。法律的な観点からみて、遺言書は様々なメリットがある実用的な手段です。ところが、世間の認識は180度異なり、遺書と混同しているのか不吉なイメージを持つ人がたくさんいます。遺言書のチラシを入れたお宅からお叱りの電話が事務所にかかってきたこともありました。この齟齬から歯がゆい思いをしたり、心理的負担を感じたりして、最近は遺言書の支援に対してどこか及び腰でした。

それでもやっぱり、私は、心に虹をかけるためのお手伝いがしたい。冒頭に触れた午後の仕事が奇しくも遺言書の作成支援だったこともあり、作成が終わった後のお客様の笑顔を見て、改めてそう思いました。

事務所の机には朝のわずかな時間だけ虹が浮かびます。その余韻が残る机を挟んでお客様と対面し、お話に耳を傾け、一緒に解決策を探る作業をこれからも続けていければと願っています。