DIY相続 自分でやるか他者に頼むか

DIYという言葉があります。英語のDo It Yourself(日本語では「自分でやる」)の略語です。

DIYとは、お金を払って他者(業者)にやらせるのではなく、自身でやる活動のことで、他人任せにせず「自分でできることは自分でやろう」という理念を生活の基本態度にしようとする精神をいいます(Wikipediaより)。

私はこのDIYの精神が大好きです。お金で解決したり他人に頼ったりする前に、自分の創意工夫でなんとかできないかとまず考える。自分の人生をお金や他人に振り回されず主体的に生きるためにぜひとも心がけたいものです。

でも、生活のすべての場面でDIYの精神が適切か、というとそうではありません。なんとか自分でやろうとすることが裏目に出てしまうこともあります。その例のひとつが相続手続ではないかと思うことがあります。

相続税の申告や不動産の相続登記を自分でやるという方はさすがにあまりいないのですが、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成、銀行の解約手続きといったその他の手続を自分でやるという方は多いです。税務申告や登記に比べて難易度が低い傾向にあるため、高度な専門知識が必要なさそうに見えるからでしょう。

ところが、いざふたを開けてみると、上手く進まない。にっちもさっちも行かなくなって、当事務所にご相談されるケースがあります。憔悴しきった姿を前に「もっと早くご相談いただけていたら、こんなにご苦労なさらなかったはず・・・」と感じることもしばしばです。

確かに、これらの手続の一つ一つは基本的にそれほど難しくありません。専門家に依頼すれば、安くはない報酬を払う必要もあります。だからこそ、DIYの精神で「まずは自分でやってみよう」となるのでしょう。問題は、相続手続を自分でやることに潜むリスクというのものが、一般の方にとって見えにくいことにあります。

難易度が低くても手間のかかる面倒な手続きがあります。相続手続には、書き慣れない書類をたくさん書いたり、平日の昼間に何度も出かけたりといった意味で面倒な手続が多いです。

特定の相続人が代表となって進める場合、その方に負担が集中します。他の相続人が非協力的だったり、労をねぎらう気持ちが伝わらなかったりすると、その方は強いストレスを感じます。その上、自分に有利なように進めているのではないかと他の相続人から疑われたりするケースも多く、まさに踏んだり蹴ったり。やり切れない気持ちになります。

また、一見簡単なように見える相続手続にも難易度の高いものが含まれます。例えば、古い戸籍の中には古文書かと思うような解読の難しいものがあり、私でも難儀することがあります。遺産分割協議で決まった内容をまとめた遺産分割協議書も、法律文書である以上、法律知識に基づいて正確に作成する必要があります。

こういった手続は、市販の本やインターネットの記事を読んで見よう見まねでやってみると、表面上はなんとか進められるものです。しかし、もしそれに不備や誤りがあれば(私の経験上、不備や誤りのないことの方がめずらしいのですが)、手続きを中止してやり直す必要があります。また、その時点では手続が終わったとしても、後になって無効とされる危険もあります。

大げさでしょうか。相続手続は個々の事情によってまったく異なるので、これらのことがさほど問題にならない場合も確かにあります。故人が生前に相続対策を行っていたおかげで面倒な相続手続を省略できる、相続手続を行うにあたって相続人の協力体制ができている、相続人が一人だけ・相続財産がシンプルである、といった場合には、相続手続を自分で(身内で)やることのリスクは低いといえるでしょう。

注意が必要なのは、DIY相続のリスク、つまり相続手続を自分でやることがはらむリスクの見極め自体が非常に難しく、その見極めには専門的な能力が必要という点です。相続は個別性が強く、本で得た一般的な知識や知人の話といった他の事例が参考になるとは限りません。また、身内の相続を何度も経験している人はほとんどいないため、一般の方が自らの経験からリスクを判断するのも危険です。一方、相続手続を数多くこなしている専門家であれば、あなた固有の状況におけるリスクを的確に判断できるはずなのです。

相続手続を円満・円滑に終わらせたいなら、ここではDIYの精神を少し控えて、まずは専門家にご相談ください。良心的な専門家であれば、自分でやりたいというあなたの意思を尊重してくれるでしょう。当事務所でも、お話を伺った結果、ご自分でやってもリスクの低い手続しかないことが判明し、相談だけで終わったケースもあります。自分でやっても問題ない手続と自分でやるとリスクのある手続を専門的な見地から腑分けしてもらったうえで、一連の相続手続に着手する方が安心です。