まどさんの校歌

私が密かに自慢にしているものーそれは出身小学校の校歌です。

小学校高学年で東京から川崎市多摩区に引っ越してきて近所の公立小学校に転校したとき、一番驚いたのは校歌でした。すべてひらがなで書かれたそれは校歌というよりは子供向けの童謡のよう。小学校の名前や周囲の地名が出てこないかわりにちきゅうたいよう、最後にはうちゅうまで登場します。中盤には「やっほー」なんて台詞も入っていました。

ちょうど背伸びしたい年頃だったので、こんな子供っぽいのはいやだなぁと最初は戸惑いました。でもこの校歌、歌うとなぜか元気がでてくるのです。楽しくなってくるのです。不思議な校歌です。朝礼や行事で度々歌う機会があったので、卒業する頃にはすっかりなじんで愛唱していました。

 

この校歌の作詞者はまど・みちおさんです。日本を代表する詩人であり、「ぞうさん」や「一年生になったら」の作詞者としても知られるまどさんは、川崎市多摩区やその周辺にゆかりのある方でした。2014年に104歳でお亡くなりになったときの病院も母校の小学校からほど近い場所にあります。

まどさんが作詞した校歌の魅力はなんといっても宇宙論的なスケールの大きさ。冒頭の「しょうがくせいだ」という素朴な自己認識が終わった後はまどさんワールド全開です。小学生であると同時に人間の子でもある自分、生き物や兄弟姉妹、森羅万象との関係の中に存在する自分を高らかに元気よく宣言していきます。その喜びは「やっほー」という言葉となり世界にこだまします。途中に出てくる「くも」は子供らの分身でもあるでしょう。「くもも いく いく げんきにいこう」と歌うとき、大空をゆうゆうと流れる雲のような気持ちになります。小学生たちは「しあわせ」や「ふしぎ」、「ほんと」を目指し、人生の階段を上っていくのです。そして、それを太陽や宇宙が見守っていることへの感歎の言葉(あぁ たいようが/うちゅうが みている)で校歌は終わります。

先日、選挙のために母校を訪れて校歌が書かれた板を久しぶりに目にしました。日常生活にあくせくとする中、まどさんの壮大な人間観を改めて新鮮に感じました。この歌は、とうの昔に卒業した元小学生たる私の存在をも深いところで優しく肯定してくれます。少し弱っていた心が勇気づけられました。詩の力や詩人の役割とはこういうことを言うのだなと思います。

こんな素敵なプレゼントをまどさんから受け取る我が母校の小学生は幸せ者ですが、関係者だけで独占しているのはもったいないかもしれません。小学校のサイトに全文が掲載されています。ご興味があればぜひご覧になってください。