Grumpaのこと

弊所の前身は、今から6年半前に私が開設した「Office Grumpa」という個人事務所です。

大学院の博士課程を中退して初めて就職したのは、会計士の集まりである監査法人という組織でした。これが肌に合わず、資格の登録要件を満たす目処が立ったところで退職。精神的な疲労からすぐに就職する気にならず、半年ほど海外で気ままに過ごし気力が回復するのを待ちました。その後、日本に戻り、一応は就職活動らしきものを進めつつ、独立への道を探ったのです。そして2013年2月に税務署に開業届けを提出する運びとなったのですが、そのとき屋号にしたのが「Office Grumpa(オフィス グルンパ)」だったのです。

この屋号は『ぐるんぱのようちえん』という絵本から取りました。ぐるんぱというのは主人公の象の名前です。初版は1966年。児童文学の名作として半世紀以上もロングセラーになっています。子供の頃に読んだという人も多いのではないでしょうか。実はこの本は大人のための転職の物語としても読むことができ、キャリア論や産業心理学の本でも度々取り上げられています。会社を辞めた直後にその中の一冊を読んで興味が湧き、駅前の本屋さんで探したらありました。

絵本では色彩豊かなイラストとリズミカルな言葉にのせてストーリーが展開します。あらすじを簡単にご紹介しましょう。

ずうっとひとりぼっちで暮らしてきたぐるんぱはある日、働きに出ることになりました。ビスケットやさん、靴屋さん、ピアノ工場、自動車工場……。ぐるんぱは、色々な仕事場で一生懸命に働きます。でも作るものが大きすぎて「もうけっこう」と断られてばかり。ぐるんぱは「しょんぼり、しょんぼり」。そんな時、忙しいお母さんに子どもたちと遊んでくれるよう頼まれました。ぐるんぱが歌を歌うと、子供たちが集まってきました。ぐるんぱは幼稚園を開きます。それは、ぐるんぱが作った大きなもので子どもたちが遊べる、すてきな幼稚園でした。

幼少期に読んだときは「ぜんぶ特大サイズのようちえんは楽しそう!わたしもぐるんぱの焼いた大きなビスケットをかじりたいな!」と無邪気に思っただけですが、大人になってからの感想は違いました。ぐるんぱに自分を重ね合わせました。

社会に出てから私が経験したのも「もうけっこう」と否定され続ける日々でした。虚しい時間ばかりが過ぎました。「しょんぼり、しょんぼり」というぐるんぱの気持ちは痛いほどわかります。ただ、その一方で私は「ふん」とも思っていました。そんな社会は、こちらからも「もうけっこう」だと。

そんな経緯で独立に至ったので、『ぐるんぱのようちえん』は大いなる希望でした。当時の私は、いわゆる高学歴と難関と言われる資格は有していました。膨大な時間を費やしてようやく手に入れたものです。キャリアを模索する長い過程でもさまざまな経験もしています。なのに一度コースから外れるとどれもこれも使い道がよくわかりません。失敗を重ねることが怖くて、何かを自分から始めることにも躊躇しました。それでも、「ぐるんぱに起こったようなことが私にも起こらないとは限らない」と思うと、悲観的になることはなかったのです。

しょんぼりしていたぐるんぱは、忙しいお母さんから偶然に必要とされます。思いつくまま歌ってみたら子供たちが喜んで集まってきました。ぐるんぱの過去の失敗作品は、自由なまなざしを持つ子供たちによって楽しい遊具へと変わりました。なんとわくわくする展開でしょうか。私もぐるんぱのようちえんのような事務所を開きたいと願いました。

Office Grumpaの開業から6年半になります。その間、いろいろなことが起こりました。英語を専門的に勉強したことはありませんが、語学力を見込まれて仕事を依頼されるようになりました。独立当初は会計事務所にアレルギーがありましたが、フリーランスとして仕事をする中で税金への興味が湧き、変なこだわりを捨て税理士業も請け負うようになりました。独立時には存在さえ知らなかった行政書士にも登録し、建設業や相続の仕事を通じてやりがいを感じている毎日です。もちろん、失敗や空回りもたくさんありました…。

これらはすべてOffice Grumpaという開かれた器の中で起こったことです。私は自分の領域を税理士業や行政書士業に限定しようとは考えていません。それらが中心になってはいますが、余白もたっぷり残しています。ぐるんぱがそうであったように、私にとっての仕事の喜びは、偶然や直感に身を委ねた先に待っている気がします。それに向かって自分の可能性を開いておきたい。人から理解されないことも多いのですが、キャリア形成は人それぞれ。世間の声を気にする必要はありません。そう思うきっかけとなったのが『ぐるんぱのようちえん』でした。

ちなみに先の「ふん」というのは、先月死去された作家田辺聖子さんの著作が元ネタです。田辺さんの小説やエッセイには働く女性への応援歌を呼べるものが数多くあり、20代~30代の前半にかけて愛読していました。細かい内容は忘れてしまったのですが、女性は社会の中で理不尽な経験を強いられることが多い、それでも「ふん」といなして軽やかに生きていけばよいという趣旨でした。この「ふん」をおまじないのように唱えてなんとかここまで来たように思います。